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番外編『悠君、お泊まりに来る』12

朝、目が覚めると誰もおらず家の中は静まり返っていた。 昨日からの火照った身体は冷め、すっかり回復したようだった。寝ている時に汗を掻いていたのでシャワーを浴び、小腹の足しにキッチンでパンを齧る。冷蔵庫にはおかずが皿に持っていたが、昼に残しておこうと思った。時間はすでに9時を回っていて、随分と寝ていたようだ。 ふと、外から車のエンジン音がして、蒼が帰宅したのを知る。悠を見送りから戻ってきたのだ。今日は休みを取ってくれたのに、なんだか蒼に対して申し訳ない気分になる。 「あれ、皐月起きたの?大丈夫?」 ポロシャツにジーンズというラフな格好で蒼はキッチンに顔を出す。長い脚がジーンズによく似合っていて、朝からモデルのような出で立ちに校門前の母親達から熱い視線を沢山送られて来たんだろうなと予想できた。 「うん。熱も下がったよ。色々ありがとう。」 「まだ寝てる?本当に大丈夫?」 蒼は心配そうに顔色を窺う。 一度目の前で倒れてから大袈裟に心配するようになり、大丈夫だと言っても自分の目でしっかりと確認しないと信じてくれないような気がする。 「いや、起きてるよ。蒼こそ出かけてきたら?」 そう言うと、蒼は複雑そうな顔をした。 キッチンに入り、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出してキャップを開けるとそのまま口をつけて飲んだ。 「どうしたの?」 「………いや、何もないんだけど。あのさ…。」 齧りかけのパンを口の中に放り込む。 蒼の歯切れの悪い言葉を不思議に思い、顔を傾げるが蒼は眉を顰める。 「……あ、そういえば蒼、昨日、俺の布団に来た?」 昨夜、寝ぼけながら蒼だと思って、抱き締めて寝ていたのを思い出す。 悠を置いて寝てたのかと思って心配になった。 「僕じゃないよ。」 蒼ははっきりとそう言うと、ペットボトルをテーブルへ置き椅子に腰掛けた。 「え?」 「悠だよ。抱き合って寝てて、流石に気付いてすぐ起こしたからいいけど、皐月、もう小学生なんだから余り距離が近いのも困るよ……。」 蒼は少し怒った口調で言うが、蒼の言葉が最後まで耳に入らず、気を落ち着かせるように飲みかけのペットボトルを一口飲む。 「………ち、ちょっと待って。…………近いって…そんなに変だった…?」 夢の中での微睡んだ出来事を思い返して青ざめる。 キスをしたような、更に抱き締めたような記憶があったりする。 「変だよ。悠も男なんだから、あまり期待させちゃ、駄目だ。」 蒼ははっきりとした口調で、真剣な瞳で自分を見据えた。 か、可哀想て………。 悠はまだ子供だ。でもさすがに、昨夜の事は明白に自分が悪い。 「ご、ごめん。ちゃんと気をつけるよ。」 「うん、そうして欲しいな。…………僕はちょっと寝室で本を読んでるね。」 蒼は少し疲れた顔をして、寝室へ戻った。

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