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セックスは声を殺して①
「おい、ちょっと」
いきなり抱き込まれて髪に顔を埋められて。玲望がちょっともがく。抵抗するという意志ではなさそうだけど、大人しくされるがままにはなりたくない、というところだろう。
「玲望の匂いがする」
ちょっと苛めるようなことを言ってしまったけれど、本当だ。ただのシャンプーからだというのに『彼』を感じられるのはとても嬉しいから。
それに、シャンプーの奥にある玲望の持つ香りまでがほのかに感じられるのだ。両方が混ざるとなんだかたまらない気分になってくる。
「またお前は……ちょっ！」
同じ文句をまた言われかけたけれど、瑞樹は手を伸ばした。抱きしめた手。玲望の腰へと。
薄い腰をするっと撫でる。夏の部屋着だ、緩いパンツにＴシャツ。
つまり、やましい言い方をすれば触りやすい。
腰を撫でて、玲望の弱いあたりに触れていく。
瑞樹の意図を悟ったのだろう。玲望が息を呑むのが感じられた。なにか言おうとしたようだったけれど、言葉は出てこなかった。
するのかとか、あるいはやめろとか。
どっちでもなかったからだろうか。
するのなんて、瑞樹と泊まりになった時点で予想していただろうから。それに恋人同士なのだから、ないほうが不自然ともいえてしまう。
それをいいことに、瑞樹は手をだんだん大胆にしていった。Ｔシャツの裾からそろっと手を差し入れて、素肌の腰に触れる。
つっと撫で上げるようにすると、玲望の体がはっきり反応した。は、と短い息がつかれる。
腰は男のものらしく、まっすぐですとんとしている。おまけに玲望はこんな貧乏生活だ。標準体型ぎりぎりかというくらいに痩せている。触れば骨が当たるのだ。
それはかわいらしいやら、もっと肉をつけてほしいやらなのだけど……今はとりあえず置いておくことにする。
「……っ！」
腰からだんだん上へ手を持っていって、胸へ辿り着いた。
てのひらで胸の先を軽く撫でただけだというのに、玲望の声が詰まる。はじめの頃はこんなところ、感じなかったのに、今ではすっかり反応するようになってしまって。自分がそうしたのだと思うと、瑞樹はたまらなくなるのだった。
胸の先に触れたものの、そこはまだやわらかい。反応しきっていないのだ。
よって、もっと玲望の体を高めるために、マッサージするように胸をさすっていく。胸だけでなく、感じやすい脇腹を撫で上げて、半ばくすぐるようにして。
玲望の息があがっていく。はぁ、はぁ、という吐息がだんだん甘みを帯びてきて、焦らしに焦らして瑞樹が胸の先、ツンと立ってしまった胸の先をきゅっと摘まんだとき。甘い声が飛び出した。
「はぁっ！ ……！ んう……」
でも甘い声は一瞬。玲望が手を持ち上げて、口を塞いだことでそのあとはくぐもってしまう。
瑞樹はその様子をちらっと見たけれど、特にやめろとは言わなかった。
言えない、のだ。
本当はそういう声を聴きたい。
たっぷり聴きたい。
こんなふうに我慢してほしくない。
けれど、問題は場所だ。
この、ボロアパートという場所だ。
壁が薄いのである。ちょっとでも大きな音や声を出せば隣に聴こえてしまうくらいに。
よって、こんな……セックスになりかけの、甘い喘ぎ声なんて大っぴらには出せない。玲望は当たり前のように隣人にこんな声、聴かせたくないだろうし、瑞樹としても同じ。玲望のかわいらしい声をひとに聴かれるなんて。
だからこのボロアパートでそういうことをするときは、大概こうなるのだった。
そこは自分も不満だし、玲望が可哀想だなとも思うのだった。愛し合う行為をしているというのに思うがままにできないというのは。
それでも、止まれるはずがない。瑞樹の指はすっかり反応した玲望の胸を捕まえて、弄りはじめていた。
きゅっと摘まんで、押しつぶして、ときには引っ張ったりもして。様々な刺激を与えていく。玲望は鋭かったり鈍かったりしたが、そのどれもに反応を返してくれた。
「ふ……っ、ぅ……」
籠った声。こんな声を出させたくないのに、なんだかこの声に煽られてしまう部分も確かにある。
いけないことをしているようで。そんなことは玲望に悪いから言いやしないけれど。
そのうち瑞樹の手は違うところへ動いた。下へ。玲望のスウェットパンツの上から、そこをするっとさする。
胸を弄られ、ある程度高められたあとなのだ。玲望の体がびくりと跳ねた。
そこが芯を持ちはじめているのを感じる。玲望に思い知らせるように軽く撫でて、上から掴んだ。
「勃ってるな」
隣に聴かれないようにするとなると、必然的に囁くような形になる。うしろから抱き込んだ姿勢の今は耳に吹き込むのも楽だ。玲望の形のいい耳に吹き込むと、違う意味に玲望の体が反応する。
「ば……っか、あ！」
きっと顔が赤くなっただろう。前からしっかり見られないのが残念だ、なんて思う。
そのうちに今度は下をゆるゆると刺激しはじめる。直接的な性感帯だ。玲望の体の反応は顕著だった。はっきり張りつめてきてしまう。
瑞樹のほうもいい加減煽られてきたところ。恋人に触れて、感じている姿を見ているのだ、当たり前だろう。
パンツを引っ張って、手を突っ込む。下着も通り越して、玲望のものを軽く掴んだ。上から触っていたときの比ではなく、興奮が体に湧いた。
「んっ、んん！ ……ぅ！」
抱いた玲望の体が震える。しっかり感じていてくれるらしい。
口を塞いで快感からの声を殺す様子。やはり妙に煽られる。
やわやわと、扱くというよりさするような動きだったけれど、玲望にはじゅうぶんらしい。
息があがって、あがって、声も張りつめていって、そのうちぷるぷると首を振った。
それが達しそうだという意味なのはわかっている。くっとくびれを刺激すると、びくりと体が跳ねた。
「いいよ、イッて」
耳からも追い上げるように囁きかけ、ぐりっと先端を抉った。感じやすいそこを抉られれば、これほど高められた末で耐えられるはずもなく。
「ん、ん……っ、んぅ……っ！」
びくびく、と玲望の体が緊張し、軽く跳ねる。瑞樹の手の中にあたたかい液体が溢れた。
下着を汚さないように、てのひらで受け止めて。瑞樹はそろそろと手を抜いた。
はぁはぁ、と息をつく玲望はやがて力を抜いていく。常にはないように瑞樹の体によりかかってきた。
「はぁ……っ、は、ふ……」
しかしその声と吐息はとろんとしていて、瑞樹は愛しさよりも欲望を強く感じてしまった。
玲望の肩を捕まえる。頬に手を沿えて、こちらを向かせた。
そしてその表情にもっと欲望は煽られる。とろんとしているのは表情も同じだったのだから。
翠の目は涙で潤んでいて、快感に緩み切った色をしていて。こんな眼を見て、耐えられるものか。
ぐっと顔を近付けて、玲望のくちびるに噛みつくように触れる。玲望が、ん、と詰まった息をして、それでも抵抗せずに瑞樹のそれを受け入れた。
触れたやわらかなくちびる。夢中になってついばんでしまう。
玲望の薄いけれど確かにやわらかなくちびるを味わって、そのうち舌でくちびるをつついた。促すように。
玲望ももう、なにを望まれているかわかるだろう。少し首を振りたそうな様子を見せたけれど、瑞樹が再び玲望のくちびるをつつくと、諦めた、というようにうっすらくちびるを開いてくれた。
その隙間から瑞樹は自分の舌を潜り込ませる。あたたかな玲望の咥内を味わいはじめた。
「んむ……っ、む……っ！」
玲望のくぐもった声がする。全部瑞樹の口の中に吸われてしまってほとんど聴こえなかったけれど。
やわらかな舌に触れて、つついて、舐めて。口の中もあちこちに触れていく。
ほのあたたかくて、ぬるっとしている口の中。
ぺろりと上顎の裏を舐めあげたとき。玲望の体がびくんと跳ねた。
「……っ!!」
ここは弱いのだ。最大限にキスを深めて、舌を伸ばさなければ届かない場所なので触るのは容易ではないのだけど、多分、ここが一番弱い。
舌の先でくすぐる。玲望の反応は顕著だった。敏感な部分に瑞樹の舌が触れるたびに体が震える。
勿論、そこだけではなく、歯の裏側やら、歯自体やらにも舌を這わせて。
ようやく玲望を解放したときには、玲望はすっかりぐったりしてしまっていた。
その体を支えて、しかし行き場は床の上だった。
正しくは座布団の上。二人で使っていた座布団の上に玲望を寝かす、というより、押し倒す。すぐに乗りかかってしまったのだから。
スイッチが入ったのは玲望だけではない。ここまで散々玲望に触れてきた、瑞樹だって。
手を伸ばして、あるものを取った。液体の入ったボトル。それがなにかなんて。
「玲望」
玲望に声をかけて、玲望がうっすら目を開けたのを確認してから、服に手をかけた。
「脱がすぞ」
パンツのウエストに手をかけて、ずるっと引き下ろしてしまう。玲望が目を丸くして、直後顔を赤く染めた。
「ちょ、待っ！ こ、ここで!?」
布団も敷いていないのに、という意味に決まっているけれど、瑞樹はボトルの中身を手に出しながら言い切った。
「待てるもんか」
「そこは待てよ!? ……っあ！」
ツッコミのようなものが入ったがやはり構っていられない。手のひらに出した液体を指ですくって、するっと玲望の奥まった部分へ手を持っていく。
瑞樹の手が触れるとひくんと反応を返してきたところ。触れられて、玲望が声を詰まらせた。
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