16 / 36
セックスは声を殺して②
たっぷり液体を塗りつける。玲望が顔をしかめた。どうしても最初は気持ち悪いようだ。
そんな思いをさせてしまっているのは申し訳ないけれど、どうしても。
どうしても玲望を抱きたいと思ってしまうのだから仕方ない、なんてちょっと身勝手なことを思ってしまう。
「んん!」
液体でよく濡らしてから、再び指に液体をたっぷりまとわせて、つぷっと一本沈める。玲望の高い声が上がった。
その声は詰まっていた。いつもそうするように、玲望が口を塞いだからだ。
やはり、我慢なんてさせたくないのに。そうなってしまうのがちょっと悲しい。
ただ、これも身勝手なのだけど。妙に興奮を煽られるという一面もあるのだった。いけないことをしているようだ、という、先程も感じた思いがまた湧いてきてしまう。
ゆっくり指を潜らせて、やがて指がすべて沈められた。やわやわ動かして、玲望の中を探っていく。
「く、……っふ、……はぁ……っ」
玲望の息はまだ荒い。快感より苦痛や違和感のほうが大きい様子だ。
中を探って、既に覚えた玲望の感じる部分を、くっと刺激する。途端に玲望の声がひっくり返った。
「はぁっ! あ、……んむ……っ」
すぐに口を塞ぎ直されてしまったけれど、一瞬上がった声は確かに快感だったので瑞樹はほっとした。前立腺のあたりをマッサージするようにすりすり撫でつつ、指を増やして質量に慣らしていく。
玲望の体もだいぶ受け入れることに慣れてきてくれたらしい。声が甘くなっていく。
やがて三本しっかり咥えこめるようになったのを確認して、瑞樹はずるっと指を引き抜いた。玲望は、ほうっと息をつく。どうしても構えていてしまったらしい。
もう一度手を伸ばして、別のものを手に取った。
それはゴム。必要だろう。
どうしてこんな手近にあるのかというと、用意しておいたからだ。すると思って、すぐ手に届くところに。
まさか布団を敷く前にするとは思わなかったけれど。玲望も言ったように、だいぶ性急だった。
でも仕方ないだろう、思えばしばらくしていなかった。泊まりになるのも少し久しぶりだったことも手伝って。
本当はずっとこうして抱き合いたかった。思いつつ、瑞樹はゴムの袋を切って、中身を出して、そして。
すぐに済ませてしまって、玲望の腿を持ち上げようとしたのだけど。
はたとした。こちらのほうがいい。
「玲望。うつ伏せになって」
「え……?」
玲望は瑞樹を見て、ちょっと不思議そうな顔をしたけれど、すぐに思い至ったらしい。眉間にしわが寄った。
嫌だなんて思っていないくせに。とりあえずそういう表情を返してくるのだ。
「ほら、早く」
玲望の腰を掴む。力を込めてひっくり返した。玲望が「わぷ!」と変な声を出す。
半ば勝手にうつ伏せにさせておいて、瑞樹は玲望の腰を掴み直した。自分に差し出すように持ち上げる。
「お前、こんっ、な! ……っ!」
「こっちのほうが楽だろ」
準備のできたものを、ぴとりと押し当てる。
楽というのは、男性の体の構造上、うしろから入れたほうが体が楽だということ。
そしてもうひとつ、声を殺すのに都合がいいということ。
玲望ももうすっかりわかっているはず。文句を言ったのは、単に腰を差し出す格好が恥ずかしかったから、のはずだ。
「力、抜いてな」
腰を軽く撫でて声をかけて。ずぷっと挿入する。よく慣らしたうえに、もう随分行為にも慣れているのだ。比較的あっさり呑み込まれていく。
「ん、あ……あぁ……!」
それでも衝撃はあるに決まっていて、玲望は声を上げながら座布団を掴んだ。腕に抱き込む。快感を散らすように。
じりじりと沈めていって、最後はちょっと強引に、ぐっと押し込んだ。玲望の体がびくびく跳ねる。
「全部、入った、よ」
玲望の背中に身を寄せて、告げる。返事は返ってこなかったけれど、ふー、ふー、とつかれる荒い息に拒絶の色はなく。それどころか随分甘くなっていた。
それにごくりと唾を呑んでしまう。組み敷いて、奥まで征服して。
今、この瞬間、玲望は自分の思い通りになってしまうのだ。
征服欲、なんてちょっと乱暴な感情が込み上げてきてしまう。それはあまり嬉しい感情ではないけれど、今はそれが心地よく思ってしまうのだから困るものだ。
「動くぞ」
やがて腰を掴んで、ゆるゆると動きはじめる。
うしろからの体勢は、瑞樹のほうも動きやすい。はじめは玲望の様子をうかがいながら、ゆっくりとだったけれど、すぐに耐え切れなくなった。きゅうきゅうと締め付けてくる玲望の中は、ほのあたたかくて、ぬるぬるしていて、とても気持ちがいいのだから。
もっと味わいたい。
そんな欲望が体をどんどん焼いていって気が付けば玲望の腰を掴んで、好きなように腰を打ち付けていた。
「はぁっ! あ、……っむぐ! ……ん、む……ぅ……」
玲望の声が高く上がって、またくぐもった。声を殺すために座布団に顔を埋めたのが見えて、更に興奮を煽られてしまう。
「玲望……っ、玲望……!」
はぁはぁと息をつきながら玲望を味わう。玲望も感じてくれているようで、イイところに当たるときだろう、背中や腰がびくりと震えて、中もきゅっと反応してくれる。
気持ちがいい、しかしそれを上回るのは幸福感。
想い合ってこうして愛し合うことができている、幸福感。
それはとても素晴らしいものだと思う。快感とそのしあわせな気持ちが体をどんどん満たしていって、やがて射精感もじりじり込み上げてきた。
「玲望……っ、もう……そろそろ」
息をつき、味わい続けながら告げると玲望の後頭部が振られて金の髪がぱさぱさ揺れた。
「ん、ん……っ!」
その反応は玲望のほうもそろそろ、という意味で。もうすっかりわかっている。
玲望のほうも押し上げるべく好きなところを重点的に突いていく。玲望のくぐもった声がどんどん高くなっていって、そしてびくんと背がしなった。
「ぁ……っん、んぅーっ!!」
甘い声と同時、中もきゅうっと締まって、玲望が先に達したことを知る。
それに搾り取られるように瑞樹も湧き上がっていた射精感に身を任せた。ゴムをしているので遠慮することはない。そのまま玲望の一番奥まで押し込んで最後の瞬間を迎える。
「……っ!」
ふるりと体が震え、腰で熱い快感が破裂した。背筋を通って一気に脳まで届く。頭が真っ白に染め上げられた。
一瞬の快感を味わって。瑞樹が息をつきながら見下ろすと、玲望はくたりとしていた。はぁはぁと荒い息をついているのが上下している背中からわかる。
「玲望……はぁ、……だいじょう、ぶ、か……?」
自身の息もあがっていてちょっと苦しかったけれど、かがんで玲望の金髪に触れる。さらりとした髪に触れると、玲望がくぐもった声を出した。
「も、おま……え、がっつき、す……ぎ」
出てきたのは文句だったので、瑞樹はちょっと苦笑した。けれどこの様子なら大丈夫そうだ、と思ってしまう。
「悪かったよ。でも悦かっただろ」
言うと、一瞬息が詰められた。きっと顔が赤くなっただろう。座布団に押し付けられているこの体勢では見えないけれど。
「ばか、やろ……」
でもその言葉でわかった。悪態だというのに、それはどこかとろっとしていて甘かったのだから。
ともだちにシェアしよう!