雄大な自然の中で人情味に溢れた人々が行き交う、レフィシーナ王国。 国土は小さいながらも、北に聳えるイルローザ山からふもとに流れる湧き水は非常に良質なもの。その水で育つ果物は一等級で、他国から訪れた者を驚かせる美味さだった。 そして、国王であるジオ･クーゴの圧倒的な統治力と国民に寄り添う暖かな人柄が支持され、20年間戦争が起きていない。 おれ――ジオ･ルーゴは、そんな偉大な父と豊かな王国を誇りに思っていた。 「おーい！ ナイトー！」 扉の前で力いっぱい叫ぶと、おれの声は王宮の長い廊下に数回こだまする。 「ルーゴ！」 「まぁた勉強かよ？ 相変わらずだなぁ」 「お前……っ、入ってくるならノックをしろとあれだけ……」 突然部屋に押しかけたおれに不服を唱えるのは、専属従者のナイト。 でもまぁ正直、従者より幼なじみって言う方がしっくりくる。だってこの通り、おれは曲がりなりにも一国の王子だと言うのにナイトは『お前』呼ばわりだ。 「まーまー、堅いこと言うなって！ な、街に行こうぜ！」 「ったく。飽きたんだろ、勉強」 「ひひっ、当てるなよ！ ほら早く！」 おれが急かすと、彼は納得していないような表情でマントを羽織った。 ナイトは何かと口うるさいしノリも悪いけど、本当に頼りになる男だ。 なんと言っても、こいつの剣術は目を見張るものがある。ジオ王軍という王族専属の軍隊に所属していて、そこでは腕利きの剣士として評判らしい。 おれの護衛があるから、軍にはたまにしか顔を出せないようだけど。 「……まぁでも、それくらいなってもらわなきゃな〜？」 「なんだよそのニヤついた顔は、気持ち悪いな」 「おっま……主人だぞ！ おれは！ 次期国王！」 「国王はフラフラ出歩いたりしないっつの」 門番に「また抜け出すのですか」なんてからかわれながら王宮を出る。街へ繋がる長い階段を降りしばらく歩くと、中心街･トムーズムへ着いた。