8 / 42

第7話 side.K

窓から差し込む陽の光が、春の訪れを強く感じさせる。柔く暖かなそれに照らされて、ぼんやりと意識が覚醒した。 「……朝か」 全身が鉛のように重い。いや、身体だけじゃない、心もだ。昨晩は全くと言っていいほど眠れなかった。 いつか来ることだと分かっていたはずなのに。自分の覚悟の浅さに辟易しながら、体を起こして身支度を始めた。 「しっかりしろ、おれ……」 軍服のボタンを締めると同時に、自分の気も引き締める。 もう一度蓋をするように、溢れてしまわないように。 「ルーゴ。起きてるか?」 「おー、入っていいぞ」 扉を開けると、広い部屋の隅で鏡に向かう男が一人。おれの主であり、レフィシーナ王国第一王子のジオ・ルーゴだ。 赤茶の髪を綺麗に整えるその横顔は、ニーニャ王妃に一層似てきた。 「……前髪上げたんだな」 「うん。やっぱ軍服似合うなぁ、ナイト」 今日はルーゴが王軍を視察する日だ。本来であれば王宮で取る朝食も、軍寮という軍隊員専用の寮で隊員達と取ることになっている。 早速王宮を出て、裏にある第一軍寮へと向かう。基地や寮は王国内にいくつかあり隊員も分散しているので、今日見ることができるのは中隊の200人余りだろう。 着くともう既に隊列を成していた。見覚えのある顔ぶれがずらりと並んでいる。 「――敬礼!」 「あぁ、いいよいいよ。楽にしてくれ」 皆んなルーゴの性格をよく知っているから、敬礼はしたものの直ぐに休めの姿勢に直った。 「今日は一日よろしくな。一応父に報告しなきゃいけないから、真面目にやるつもりだ。皆んなはいつも通り過ごして欲しい。ということで早速朝食にしよう!」 まるで宴のような調子で言うもんだから、隊員たちはウォーとよく分からない喜びの声を上げた。 まったく、いつも緊張感がないというか……。 「……本当に真面目にやるんだろうな?」 「へへへ、やるってば」 「――ルーゴ様! ご苦労様です!」 「お、レイウス!」 声をかけてきたのは、5歳年上のレイウス佐官だ。中隊を取りまとめる指揮官で、剣術も弓術も申し分ない腕前の持ち主。 ただ……。 「なんかまたカッコよくなりました? 前髪上げてるの素敵っすね〜!」 「ありがとう。レイウスも……さらに大きくなったな?」 「はは、やだな〜。筋肉は日々変わるんですよ」 筋肉馬鹿なところは別に良いのだが、この軟派な性格だけはどうしても性に合わない。 「ていうかあれ? なんだか不機嫌そうな男もいますね」 「……相変わらずで安心しますよ、レイウスさん」 「ルーゴ様、ちょっとナイトと話したいんですが……いいですか?」 「あぁ、ゆっくり話すといい。先に食べてるぞ」 隊員達に混ざっていく背中を見届け終えたら、レイウスさんに肩を組まれた。

ともだちにシェアしよう!