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第7話 side.K
窓から差し込む陽の光が、春の訪れを強く感じさせる。柔く暖かなそれに照らされて、ぼんやりと意識が覚醒した。
「……朝か」
全身が鉛のように重い。いや、身体だけじゃない、心もだ。昨晩は全くと言っていいほど眠れなかった。
いつか来ることだと分かっていたはずなのに。自分の覚悟の浅さに辟易しながら、体を起こして身支度を始めた。
「しっかりしろ、おれ……」
軍服のボタンを締めると同時に、自分の気も引き締める。
もう一度蓋をするように、溢れてしまわないように。
「ルーゴ。起きてるか?」
「おー、入っていいぞ」
扉を開けると、広い部屋の隅で鏡に向かう男が一人。おれの主であり、レフィシーナ王国第一王子のジオ・ルーゴだ。
赤茶の髪を綺麗に整えるその横顔は、ニーニャ王妃に一層似てきた。
「……前髪上げたんだな」
「うん。やっぱ軍服似合うなぁ、ナイト」
今日はルーゴが王軍を視察する日だ。本来であれば王宮で取る朝食も、軍寮という軍隊員専用の寮で隊員達と取ることになっている。
早速王宮を出て、裏にある第一軍寮へと向かう。基地や寮は王国内にいくつかあり隊員も分散しているので、今日見ることができるのは中隊の200人余りだろう。
着くともう既に隊列を成していた。見覚えのある顔ぶれがずらりと並んでいる。
「――敬礼!」
「あぁ、いいよいいよ。楽にしてくれ」
皆んなルーゴの性格をよく知っているから、敬礼はしたものの直ぐに休めの姿勢に直った。
「今日は一日よろしくな。一応父に報告しなきゃいけないから、真面目にやるつもりだ。皆んなはいつも通り過ごして欲しい。ということで早速朝食にしよう!」
まるで宴のような調子で言うもんだから、隊員たちはウォーとよく分からない喜びの声を上げた。
まったく、いつも緊張感がないというか……。
「……本当に真面目にやるんだろうな?」
「へへへ、やるってば」
「――ルーゴ様! ご苦労様です!」
「お、レイウス!」
声をかけてきたのは、5歳年上のレイウス佐官だ。中隊を取りまとめる指揮官で、剣術も弓術も申し分ない腕前の持ち主。
ただ……。
「なんかまたカッコよくなりました? 前髪上げてるの素敵っすね〜!」
「ありがとう。レイウスも……さらに大きくなったな?」
「はは、やだな〜。筋肉は日々変わるんですよ」
筋肉馬鹿なところは別に良いのだが、この軟派な性格だけはどうしても性に合わない。
「ていうかあれ? なんだか不機嫌そうな男もいますね」
「……相変わらずで安心しますよ、レイウスさん」
「ルーゴ様、ちょっとナイトと話したいんですが……いいですか?」
「あぁ、ゆっくり話すといい。先に食べてるぞ」
隊員達に混ざっていく背中を見届け終えたら、レイウスさんに肩を組まれた。
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