9 / 42

第8話 side.K

レイウスさんの腕は記憶していたものより一回り太くなっていた。日々の鍛錬の賜物だろう。 「……なんすか、話って」 「お前なかなか軍に顔出さねぇからさ、気になってたんだよ。ルーゴ様とのこと」 「……」 「吐き出す場所がないと辛いだろ? おれが聞いてやるよ」 幼い頃からこの人の背中を見て育ってきた。一言で言うと兄のような存在。 この寛大な心に触れると、どうしても覚悟が緩んでしまう。 「…………近いうち婚約するかもしれない」 「えっ……マジで?!」 「誕生日の立食パーティーで婚約者を見定めるらしい、っす」 「まだ早くねぇか……?」 「クーゴ様、ご自身の遅い結婚を後悔されててルーゴはそうならないようにって」 「…………」 レイウスさんが驚きで言葉を失っているのがわかった。 ――ルーゴが好きだ。主として、幼なじみとして、友人として、そして……男として。物心ついた時から、堪らなく好きだった。 「婚約者」という言葉を聞いた時、心臓が止まるかと思った。婚約なんてまだ先の話だと思っていたのに。 こんな気持ちを抱いている時点で罪を犯しているのかもしれない。それでも傍にいたい。 傍にいたいのに、時々どうしようもなく逃げたくなることがある。それはいつも、自分の醜い感情に耐えられない時だ。 「――できることなら、もっと遠い存在になりたかった」 「…………それでも結局護り続けるんだろ?」 「……ははっ、愚問ですよ」 傍にいたい、でも離れたい。そんな矛盾した気持ちを抱えながら、一生護ると決めている。 もし離れるとするならそれは、指令があった時か気持ちがバレた時だろう。 「おれお前のそういうとこ大好きだぜ」 「やめてください、気持ち悪いな」 「安心しろ、おれが生きてる間はいくらでも愚痴聞いてやるから。お前は本当にいい男だよ、ナイト」 「……いい男かは知らないですけど……ありがとうございます」 レイウスさんに気持ちがバレてしまった3年前は、ここまで親身に話を聞いてくれるとは思ってなかった。 でも、彼がいなければ本当にどうなっていたかわからない。なんだかんだ、とても恩義を感じている。 「つーか、なんかあっち騒がしいな。おれらも朝飯食うか!」 気を取り直してルーゴの元へ向かうと、どうやら隊員達とかなり盛り上がっている様子だった。

ともだちにシェアしよう!