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第8話 side.K
レイウスさんの腕は記憶していたものより一回り太くなっていた。日々の鍛錬の賜物だろう。
「……なんすか、話って」
「お前なかなか軍に顔出さねぇからさ、気になってたんだよ。ルーゴ様とのこと」
「……」
「吐き出す場所がないと辛いだろ? おれが聞いてやるよ」
幼い頃からこの人の背中を見て育ってきた。一言で言うと兄のような存在。
この寛大な心に触れると、どうしても覚悟が緩んでしまう。
「…………近いうち婚約するかもしれない」
「えっ……マジで?!」
「誕生日の立食パーティーで婚約者を見定めるらしい、っす」
「まだ早くねぇか……?」
「クーゴ様、ご自身の遅い結婚を後悔されててルーゴはそうならないようにって」
「…………」
レイウスさんが驚きで言葉を失っているのがわかった。
――ルーゴが好きだ。主として、幼なじみとして、友人として、そして……男として。物心ついた時から、堪らなく好きだった。
「婚約者」という言葉を聞いた時、心臓が止まるかと思った。婚約なんてまだ先の話だと思っていたのに。
こんな気持ちを抱いている時点で罪を犯しているのかもしれない。それでも傍にいたい。
傍にいたいのに、時々どうしようもなく逃げたくなることがある。それはいつも、自分の醜い感情に耐えられない時だ。
「――できることなら、もっと遠い存在になりたかった」
「…………それでも結局護り続けるんだろ?」
「……ははっ、愚問ですよ」
傍にいたい、でも離れたい。そんな矛盾した気持ちを抱えながら、一生護ると決めている。
もし離れるとするならそれは、指令があった時か気持ちがバレた時だろう。
「おれお前のそういうとこ大好きだぜ」
「やめてください、気持ち悪いな」
「安心しろ、おれが生きてる間はいくらでも愚痴聞いてやるから。お前は本当にいい男だよ、ナイト」
「……いい男かは知らないですけど……ありがとうございます」
レイウスさんに気持ちがバレてしまった3年前は、ここまで親身に話を聞いてくれるとは思ってなかった。
でも、彼がいなければ本当にどうなっていたかわからない。なんだかんだ、とても恩義を感じている。
「つーか、なんかあっち騒がしいな。おれらも朝飯食うか!」
気を取り直してルーゴの元へ向かうと、どうやら隊員達とかなり盛り上がっている様子だった。
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