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第9話 side.K
食堂のテーブルにはパン、肉と野菜のスープ、季節のフルーツが並んでいる。誰かがおれとレイウスさんの分も用意してくれたみたいだ。
おれはルーゴの隣に座り、レイウスさんはおれの前の席に座った。
新兵だろうか、見慣れない顔の若い男が数人、ルーゴと楽しげに話している。
「えー! お前恋人いるのか!」
「いますよぉ〜! ルーゴ様ご存知ないんですか、王軍所属ってすげぇモテるんすよ」
「へぇ〜……。おれより年下なのにすげぇなぁ」
「それでこの前ついに〜、あっ、これ以上はちょっとやめとこう」
ルーゴの人懐っこさや親しみやすさは魅力だと思うけど、年下の新兵にここまで心を許していいものだろうか。
この新兵も、馴れ馴れしく話し過ぎな気がする。
「この前はって? 何かあったのか?」
「いやあ、王子の前で話すにはちょっと……」
「……」
あぁ、その上地雷を踏んだ。ルーゴは「王子だから」という理由で何か断られるのをとにかく嫌っているのに……。
「……おい、新兵。悪いことは言わないから、今の話を続けた方が身のためだぞ」
フォローを入れると、新兵は気まずそうに俯きながら話し始めた。
「……まぁちょっと、いや、あの……卒業しまして、大人になったんすよ。アッチの話です」
「なんだ、そんなことか……」
「ちょ、ナイトさん! そんなことって!」
確かに一国の王子の前でする話じゃないと思いつつ、ルーゴの反応が気になり表情を盗み見る。
「……そうかあ、良かったな」
笑っているのにどこか悲しげなその横顔を見た途端、胸の張り裂ける思いがした。
好きな女との初夜なんて年頃の男には有り触れた話だけど、それでもルーゴには眩しく思えるのだろう。
当たり前だが、自由恋愛が禁じられている訳じゃない。ただ今までルーゴにそういう機会が無かったというのと、やはり公爵家との婚約が最も安泰なことから、恋愛自体を諦めているのだろう。
様々な不自由を生まれながらに背負っている彼を見ていると、おれの悩みがいかにつまらないものかよくわかる。
だからせめて、彼を傷つける全てのものから彼を護ると決めている。この愛しい王子様が誰にも壊されないように。おれの命の限り護ると、そう心に決めているのだ。
「……ルーゴ」
「ん?」
「おれの苺やるよ。あと甘夏も」
「えっ、いいのか? めちゃくちゃ甘くて美味いのに」
「……ふ、ははっ。ナイト〜、不器用過ぎるだろ」
「……」
レイウスさんの冷やかしを無視して、もう温くなったスープを飲み干した。
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