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第11話

迎賓の間には、シェフ達が腕によりをかけて作った料理の数々がずらりと並べられている。 さっきレフィシーナ宮殿で無事に勲章授与を終えたものの、息をつく暇などない。すぐに王宮に戻って立食パーティーが始まった。 そこで今からお礼のスピーチを読まなきゃいけないのに、皆んな目の前の料理に目を奪われてしまっている。 ここはひとつ、大胆に省いてみるのもありだな……。 「ご来賓の皆様、本日はお忙しい中私の祝宴にご臨席を賜りまして、誠にありがとうございます。えーと……堅苦しいことは抜きに致しまして――乾杯!」 かなり端折ったのがバレたのか、集まった来賓達がドッと笑い声をあげた。 近くにいた父さんとナイトだけが呆れた様子で頭を抱えている。 「こら、ルーゴ! スピーチくらい真面目にやらんか!」 「へへ、ごめん父さん。でもほら、皆さん早く召し上がりたいかなと思って」 「まったく……まぁいい、一人ひとりにちゃんとご挨拶してきなさい。ナイト、頼んだぞ」 「はい、お任せ下さい」 諸外国の皇太子や公爵家の面々に挨拶回りを済ませ、言われた通り令嬢とも対話してみた。 ……けど、正直何を話しても皆んな同じというか。いや、皆んなちゃんとしてるし礼儀正しいし綺麗だし、婚約者としては申し分ない。 それでも、ここから相応しい一人を決めるだなんて到底おれにはできそうにない。 「……お疲れですか?」 「ん?」 「ルーゴ様、この度はおめでとうございます。素敵な祝宴にお招きいただき光栄です。今日は朝からご多忙だったのでしょうね」 声をかけてきたのは、セレネモード公爵家の長女であるセレネモード・アリア。長く艶やかな水色の髪が印象的で、シャンパンゴールドのドレスがよく似合っている。 「大丈夫、ありがとう。そのドレスはセレネモード家に代々伝わるものなんだろ? 綺麗だな」 「いえそんな、綺麗だなんて」 「あぁ、いいドレスだ」 「……あっ、ドレス………」 聡明で冷静そうな彼女だけど、なぜか考えてることが手に取るようにわかる。頬を真っ赤に染め、視線をあちこちに泳がせていたから。 「あはははっ、ごめんごめん。ドレスだけじゃないな、君も綺麗だよ」 「……からかうのはおやめ下さい。私は何も言っておりませんわ」 「いや、セレネモード家は完全無欠という印象を持っていたけど……。どうやらアリアは違うみたいだ」 からかったつもりは毛頭ないのに、アリアは拗ねた様子でその場から離れてしまった。 「ふ、ははは。勘違いして勝手に怒るなんて」 「あれはお前が悪い、ルーゴ。あんな風に言われたら誰だって勘違いするだろ」 後ろで聞いてただけのナイトに言われる筋合いはないと思ったけど、いつものことなので気にしない。 「まぁいいだろ? こう、新たな一面が見られたってことで!」 「気に入ったのか、アリア様のこと」 「んー、まだわかんないけど……。そうだなぁ、素直で魅力的だとは思うぞ。ナイトはどうだ?」 お前の意見も聞いておかないと、と目を合わせた瞬間、思いがけず言葉を失った。 「…………あぁ、おれもそう思うよ」 微笑んでいるはずなのに、そのナイトの瞳は哀しみを隠し切れていなかったから。

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