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第13話
結局ナイトは本当に二週間戻らず、最終日の夜に土産のフルーツを抱えて帰ってきた。
「……おかえり」
「ただいま。二週間も空けてすまなかった」
「べ、別に?! お前がいなくたって楽しかったし!」
「…………あぁそうかよ」
二週間もどこで何をしてたんだとか、こっちは退屈だったんだぞとか、お前は寂しくなかったのか、とか。言いたいことは沢山あるのに、なぜか何も言えなかった。
こんなの初めてだ。ナイトに言いたいことが言えないなんて、今までの自分なら有り得ない。
「婚約の話、進んだのか」
「え? あぁ、うん。近々セレネモード家へ伺おうと思っている」
「……そうか。じゃあおれはもう寝る、おやすみ」
「え、ちょ、おいっ……」
主が婚約するかもしれないのに、従者のくせに詳細も聞かずさっさと部屋へ行ってしまった。
また自分だけが感情的になってるみたいで、ナイトのその淡泊さに腹が立つ。
「もっと興味持てバカ!」
自室に戻る前に、ナイトの部屋の扉に向かって思い切り叫んでやった。
*
数日後、おれはアリアに婚約の申し出をするため、ナイトとセレネモード邸を訪れていた。
「――という訳で、ぜひアリアを王太子妃にと考えている。返事は今すぐじゃなくていいから、考えてみて欲しい」
「……一つよろしいですか? なぜ私なのでしょうか」
「え、うーん……なぜって言われてもなぁ。一番素直だったからかな」
「素直……? お言葉ですが、素直と言われたことなど一度もないのですが」
選んだ理由に納得できないのか、アリアはあからさまに怪訝な表情を浮かべた。
「いや、アリアは素直だよ。それに優しい。式典の時、他の令嬢は妃の座を狙ってアピールする者ばかりだったけれど、君は最初におれの体調を心配してくれただろ」
「……」
「皇太子妃になる上で、何か気に入らないことでもあるのか?」
「いえ……」
言い淀む彼女にこれ以上何を言っていいかわからず、出された紅茶を飲もうとしたその時だった。
「あっ……!」
「――! ルーゴ、飲むな!」
ティーカップに口を付ける寸前で、椅子の後ろに立っていたはずのナイトがそれを弾いた。一瞬宙に舞ったカップは重力に従っておれの膝に落ち、はねた紅茶が身体にかかる。
「熱っ……! 何すんだナイト!」
「……毒だ」
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