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第14話 side.K
ずっと不審に思っていた。
王太子が直々に婚約を申し出ているのに、彼女は何故浮かない顔をしているのか。公爵家の令嬢ならば、王太子妃の座なんて喉から手が出るほど欲しいはず。
「毒……?!」
振り返ったルーゴは唖然とした様子でこちらを見つめている。
セレネモード邸に入った瞬間から、なんだか嫌な予感がしていた。
まず、「二人きりで話したいから」とおれが部屋に入ることを拒まれたこと。
「……あの時に食い下がって正解だった。『王子と二人きりで』なんて、普通なら恐れ多くて言わないはずだからな」
二つ目は、ルーゴに褒められた彼女が、照れずにばつの悪そうな顔をしたこと。そして決め手は、ルーゴがティーカップを持った時の反応だ。
「今から暗殺しようとしている相手に褒められたら、罪悪感が生まれたんだろ。式典の時のやり取りで照れていた彼女が、さっきの会話で赤くならないはずがない」
「……お待ちください。それが毒だという証拠などどこにもありません。嘘偽りで――」
「もう無駄だ、出てこい。……今ならまだ間に合うぞ」
アリアの言葉を遮ってそう言うと、男たちがカーテンの裏や棚の中からおずおずと現れた。
ルーゴが倒れた後におれのことも襲おうと、家来が数人部屋の隅に潜んでいたのだ。
「アリア、これは一体どういうことだ?」
「…………申し訳、ありません……」
「……何か理由があるんだな?」
幼い子供をなだめる時のような声音でルーゴが尋ねると、アリアの瞳から堰を切ったように涙が溢れ出した。
「……っアルファとしか……婚約、できないのです……。セレネモード家の、しきたりで……! 私は何度も……反対したのです、が……お父様が……っ」
アリアは体を震わせながら話し、部屋には彼女の嗚咽だけが響いていた。
セレネモード家が代々アルファのみの家系ということは有名だ。知能や身体機能が高いと言われており、社会的階級のトップに君臨できるアルファ性を途絶えさせない為だろう。
これは公爵家や伯爵家など貴族の家柄にはよくあることで、消して珍しい話ではない。
しかしそれは、王太子妃という地位を蹴ってまで守るべきものなのか。ルーゴとの結婚が嫌なら断ることもできたはずなのに、なぜ暗殺という考えに至ったのか。疑問は次々に浮かんでくる。
ルーゴは何を言うつもりなのだろう。おれは静かに主の言葉を待った。
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