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第15話 side.K
「確かにおれはベータだが……アルファ以外との婚約が禁じられてるのなら、断ることもできたはずだ。なぜおれを暗殺しようとした?」
ルーゴは至って冷静だった。普段はいい加減だが、こういう一面を見る度に次期国王の素質を強く感じる。
アリアは呼吸を整えてから顔を上げ、ルーゴの目を見て話し始めた。
「……私の両親はベータとオメガに強い偏見を持っていて、幼い頃から『アルファ以外と関わるな』、『この世がアルファだけで構成されたら、より良い社会になる』など言われてきました。特に父は狂気じみていて、アルファしかいない社会を本気で夢見ているほどです」
「……アルファだけの国、か」
アリアの父親、セレネモード・ゲティ。彼がアルファ至上主義である話は有名だが、まさかそこまでとは知らなかった。
「ええ。父にとってベータやオメガは排除の対象でして、次期国王であるルーゴ様が最初に狙われたのです。王宮から書簡を頂いた時、暗殺の計画を聞かされました。私は何度も反対しましたが……父や周りの人間を説得することができず…………」
そこまで話して、アリアはまた涙を流した。彼女が暗殺に加担せざるを得なかったのは気の毒だが、父親の思想に染まらなかったことは唯一の救いかもしれない。
「なんだ、そういうことか……」
「え?」
「君を赦そう、アリア。婚約は……そうだな、破棄してくれて構わない」
「え、あの……!」
ルーゴは何か振り切れた様子で言い、立ち上がった。迷いのないその背中を追いかけると、ゲティが青ざめた顔をして立っていた。
「あ、あの……これはこれは、ルーゴ殿下……」
「何を言うつもりだ? 罪の重さはお前が一番よくわかっているはずだ」
腰に携えていた剣を引き抜き彼の首筋に向けると、「ひぃっ」と情けない声を上げた。
「やめろ、ナイト! 剣をしまえ!」
「……なぜ止める?」
「おれは生きている。彼を殺すなら俺が死んでからにしてくれよ」
笑いながら縁起でもないことを言うルーゴ。おれは主の命令に渋々従い、剣をおさめた。
「……貴方のことを赦そう。おれはベータだけど、性別の不利を感じさせないくらい努力する。殺したいほどおれが憎くても、国王になるまで待ってくれないか」
「…………それは、どういう」
「アルファ以外にも活躍の場を設けるつもりだし、薬の開発は今以上に力を入れよう。きっとより良い国にしてみせる。ベータやオメガだって、虐げられるために生まれてきたんじゃないからな」
語気を強めて話すルーゴの言葉には、信念が透けて見える気がする。
その佇まいに戦いたのかゲティは素直に謝罪し、この一件はルーゴが見逃す形で水に流された。
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