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第16話 side.K

おれ達はセレネモード邸を後にし、王宮への道を歩き始めた。 暗殺されかけたというのに、ルーゴの足取りは軽い。しかも、どこか晴れやかな表情をしているのは気の所為だろうか。 「いや〜参ったな、父さんになんて説明しよう」 「おい、まさか何も言わないつもりじゃないよな?」 「ん?」 問いただすと、一気に瞬きが増えた。しらばっくれる時の癖だ。 「……殺されかけたんだぞ? あと数秒遅ければ間違いなく死んでた。彼にはきちんと裁きを――」 「でも死んでない、お前が助けてくれたからな。ありがとうナイト」 「…………!」 子どもの頃と変わらない、憎しみなど知らないような笑顔。おれが誰かを憎むことは簡単だけど、ルーゴはそうさせてくれなかった。 * 「振られた」などと嘘をつき暗殺の件を誤魔化したルーゴだったが、クーゴ様にその嘘を見抜かれ、結局セレネモード家は公爵家の地位を剥奪された。 本来なら裁きを受けるべきだが、ルーゴが頑なに拒んだので称号の没収だけで済むそうだ。 「まぁでもさ? 婚約なんて絶対早かったしさぁ、おれ的にはラッキーだよ」 当の本人は深く考えていないのか、驚くほど呑気である。この能天気さは一体誰に似たのだろう。おれとしては、もう少し危機感を抱いて欲しいところだ。 「それでいいのか。また一から婚約者を選ばなきゃいけないんだぞ」 「あ〜、確かにそれはちょっと面倒臭いなあ。おれはナイトがいればそれでいいのに」 「………………は?」 「……ん?」 ルーゴの言葉がにわかには信じ難く、おれは思わず瞠目した。 いよいよ自分の気持ちに限界が来て幻聴が聴こえたのだろうか。そんなことを考えて黙り込んでいたら、ルーゴが先に口を開いた。 「ちょっと待て、おれ今なんか恥ずかしいこと言ったか……?」 「……!」 耳まで真っ赤に染まったのを隠すように、右手で口元をおさえるルーゴ。初めて目にするその表情に、胸がじんと熱くなった。 「……おれがいればいいのか?」 「違っ、いや違くはないんだけど……って、言わすな!」 「おれがいれば婚約しなくてもいいってことか?」 自分でも意地が悪いと思う。酷く照れている相手に向かって、こんな風に問いただすなんて。 「…………だってさぁ。すげー寂しかった」 「寂しい?」 「〜〜お前がいなかった二週間! おれは寂しかったの! それなのにお前は平然としてるし……どこ行ってたんだよ……」 ルーゴは恥ずかしさでいたたまれないのか、泣きそうになりながら語気を弱めた。 ……まずい、嬉し過ぎて口元が緩む。

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