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第17話

顔が熱い。余計なことばかり口走ってる気がするし、なんだか凄く見つめられている。 目の前の男は幼なじみで従者で、ただそれだけのはずなのに、どうしてこんなに照れ臭いのだろう。 「そうか、寂しかったのか」 「……っもういい! 変なこと言った!」 「待て、おれが何してたか気になるんだろ?」 「……」 踵を返しその場から逃げようとしたのに、手首をがっしりと掴まれる。 聞きたいのに聞きたくない。そんな矛盾した気持ちが心の中でもつれ合った。 「お前が居なくても楽しく快適に過ごしていた」なんて言われたら、きっとおれは勝手に胸を痛めてしまうだろうから。 でも、ナイトから告げられたのは思いがけない言葉だった。 「二週間帰らなかったのは……ルーゴは聞いてないだろうけど、実は少し前からクーゴ様に軍に戻らないかと言われていてな。ここ最近ハイルアド帝国が他国に挑発行為を続けていて、国防を強化する必要が――」 「嫌だ! 軍に戻るのか?!」 掴まれた手を振り払い、気づいたらおれがナイトの手のひらを握っていた。心臓の鼓動が瞬く間に速くなっていき、それに伴って背中に汗が滲む。 ナイトがおれから離れてしまう。 その情報だけが脳内を占めると、全身から一気に血の気が引いた。 「い、いやだ……行くなっ……!」 「落ち着け、まだ決まったわけじゃない。時間が欲しいと答えたんだ……確かめるために」 「……確かめるって、何をだよ」 「おれがルーゴから離れられるかを」 困ったように微笑んで手のひらを力強く握り返してくるナイト。夜空みたいな深い紺色の瞳が、おれを捉えて放さない。 「……っ、なんだよ、それ」 「一生護ると誓ったくせに、婚約者といるお前を見たら……その覚悟が揺らいだ。羨ましくて嫉妬して、そんな自分が嫌になった。でもちょうどその時期に軍へ誘われ、正直いい機会だと思ってな。二週間の休みは自分を試すつもりで――」 「ん? ちょ、待て待て、なんでナイトが嫉妬すんの? もしかしてお前、アリアのこと好きだったのか?!」 「……はぁ?」 ナイトが軍へ戻る話なんて知らなかったし、おれに相談もせず答えを出そうとしたことは腹が立つ。だけど、そんなことなど気にならないくらい引っかかる内容だった。 嫉妬するほど、そしておれから離れようとするほどアリアのことが好きだったなんて。 ナイトの秘密主義は昔からだけど、いい加減おれくらいにはなんでも話して欲しいものだ。 「水臭いな、言ってくれればいいじゃねぇか。そしたら婚約者に選んでなかったのに」 「……ちょっと待てルーゴ、勘違いも甚だしいぞ」 「え、なに? アリアが好きでおれに嫉妬したんじゃないの?」 「あのなぁ、おれが好きなのは……っ」 「……? 好きなのは?」 「……っ」 ナイトは肝心なところで言葉に詰まり、苦悶の表情を浮かべた。 「ナイト……?」 そしておれはなぜか、立食パーティーの時の彼の微笑みを思い出していた。何かを諦めたような、哀しみに満ちた瞳だった気がする。 “確かめるために。おれがルーゴから離れられるかを” “羨ましくて嫉妬して――” 全ての辻褄がぴったり合ったその瞬間、おれは思わず口を開いていた。 「好きなのは、おれ……?」

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