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第18話

思わず口から漏れた言葉を聞いたナイトは、深く長いため息をついた。 ナイトの好きな人って、おれかもしれない。 なぜこの答えに至ったのかは自分でも分からないけど、おれの中で歯車が噛み合った瞬間から、それしか考えられないのだ。 「いや、なんとか言えよ……」 「……最悪だ」 「……っだ……だよなぁ! ナイトがおれが好きとか、そんなわけないよな?!」 「一生言わないつもりだったのに、こんなかたちでバレるなんて」 「……え…………」 どうやらおれの直感は間違ってなかったようだ。慈しむように握られた右手からナイトの熱が伝わってきて、おれの体温と溶け合っていく。 そして彼は微かに口角を上げ、おれの前に跪いた。 「言っておくが冗談ではないからな。冗談にして欲しいだろうけど、あいにく本心だ。物心ついた時から、おれはルーゴが好きなんだ」 「……う、嘘だ」 「嘘でもない。一生言わないつもりだったから、正直この状況は予想外だけどな」 「一生て、秘密主義にも程がある……」 面と向かって伝えられたナイトの言葉は、おれの脳内で何度も反芻した。あまりにも重いその告白に、心臓がぎゅっと締め付けられる。 物心つく頃からと言うと、十五年くらいだろうか。こんなに近くにいたのに、おれは何にも気づいてやれなかった。 なんて言えばいいのだろう。従者で幼なじみで親友の彼に、なにを伝えるべきなのか。 「……おれ、どうしたらいいの」 「ふっ、別に何もしなくていい。おれがただ勝手に好きでいるだけだから、お前は変わらず婚約者を探すことだな」 「それじゃナイトはどうすんだ」 「正式に軍に戻るつもりだ。好きだなんて言われたら流石に気まずいだろうからな」 「えっ……?! 嫌だ!」 ナイトがおれから離れていく。たったそれだけで再び焦燥に駆られ、彼の手をより一層強く握った。 「嫌だって言ってもな……。大体お前、気持ち悪くないのか? ずっと従者だと思ってた奴に好きだなんて言われて」 「気持ち悪い……?」 言われてみれば、嫌悪感なんて全然なかった。好きだと言われても、こうして手を握られても。 「とにかく、離れた方がお互いのためだし――」 「嫌だ!」 「……嫌だ嫌だってお前、子どもじゃないんだからな」 「おれはお前が離れるのだけは絶対に嫌だ! それでもお互いのためだって離れてくのかよ?!」 「……」 自分で言っておきながら、残酷だと思った。ナイトの気持ちを知ってもなお傍にいて欲しいだなんて、本当に駄々をこねる子どもみたいだ。 それでも行って欲しくない。心からそう願ったら、なぜだか急に涙が込み上げてきた。 「いやだ……行くなよ、ナイト……」 「……っ、わかった、行かない。行かないから」 慌てて立ち上がったナイトが、宥めるようにおれの頭を撫でた。 半ば強引に引き止めた挙句に泣くなんて、自分でも狡いと思う。 それでもおれは、もうナイトを離してやれなかった。

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