19 / 42
第18話
思わず口から漏れた言葉を聞いたナイトは、深く長いため息をついた。
ナイトの好きな人って、おれかもしれない。
なぜこの答えに至ったのかは自分でも分からないけど、おれの中で歯車が噛み合った瞬間から、それしか考えられないのだ。
「いや、なんとか言えよ……」
「……最悪だ」
「……っだ……だよなぁ! ナイトがおれが好きとか、そんなわけないよな?!」
「一生言わないつもりだったのに、こんなかたちでバレるなんて」
「……え…………」
どうやらおれの直感は間違ってなかったようだ。慈しむように握られた右手からナイトの熱が伝わってきて、おれの体温と溶け合っていく。
そして彼は微かに口角を上げ、おれの前に跪いた。
「言っておくが冗談ではないからな。冗談にして欲しいだろうけど、あいにく本心だ。物心ついた時から、おれはルーゴが好きなんだ」
「……う、嘘だ」
「嘘でもない。一生言わないつもりだったから、正直この状況は予想外だけどな」
「一生て、秘密主義にも程がある……」
面と向かって伝えられたナイトの言葉は、おれの脳内で何度も反芻した。あまりにも重いその告白に、心臓がぎゅっと締め付けられる。
物心つく頃からと言うと、十五年くらいだろうか。こんなに近くにいたのに、おれは何にも気づいてやれなかった。
なんて言えばいいのだろう。従者で幼なじみで親友の彼に、なにを伝えるべきなのか。
「……おれ、どうしたらいいの」
「ふっ、別に何もしなくていい。おれがただ勝手に好きでいるだけだから、お前は変わらず婚約者を探すことだな」
「それじゃナイトはどうすんだ」
「正式に軍に戻るつもりだ。好きだなんて言われたら流石に気まずいだろうからな」
「えっ……?! 嫌だ!」
ナイトがおれから離れていく。たったそれだけで再び焦燥に駆られ、彼の手をより一層強く握った。
「嫌だって言ってもな……。大体お前、気持ち悪くないのか? ずっと従者だと思ってた奴に好きだなんて言われて」
「気持ち悪い……?」
言われてみれば、嫌悪感なんて全然なかった。好きだと言われても、こうして手を握られても。
「とにかく、離れた方がお互いのためだし――」
「嫌だ!」
「……嫌だ嫌だってお前、子どもじゃないんだからな」
「おれはお前が離れるのだけは絶対に嫌だ! それでもお互いのためだって離れてくのかよ?!」
「……」
自分で言っておきながら、残酷だと思った。ナイトの気持ちを知ってもなお傍にいて欲しいだなんて、本当に駄々をこねる子どもみたいだ。
それでも行って欲しくない。心からそう願ったら、なぜだか急に涙が込み上げてきた。
「いやだ……行くなよ、ナイト……」
「……っ、わかった、行かない。行かないから」
慌てて立ち上がったナイトが、宥めるようにおれの頭を撫でた。
半ば強引に引き止めた挙句に泣くなんて、自分でも狡いと思う。
それでもおれは、もうナイトを離してやれなかった。
ともだちにシェアしよう!