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第19話
それからというもの、ナイトのことを変に意識してしまう日々が続いた。
納得いかないのは、当の本人は至っていつも通りだということ。なんなら本当におれを好きなのかさえ疑わしいくらい普通なのに、おれ一人だけが明らかに動揺していた。
ある日は、おれが躓いて転びそうになった時。
「おわっ――」
「っと。危ないな、気をつけろ」
「あは、ごめん……って、おい! 近いだろ!」
「…………」
身体なんて今まで何度も支えられてきたはずなのに、どうしようもなく恥ずかしくて堪らず逃げてしまった。
そして、またある日は――。
「ルーゴ、腰の紐が解けてる。結ぶから止まってくれ」
「い、いい! 自分でやる!」
「…………」
ナイトの提案を拒否し、いつもは結んで貰っている腰のリボンを自分で結んだら、見事な縦結びが出来上がった。
こんな反応を続けること一週間、とうとう彼から呼び出しを食らってしまった。
さらに、その表情からして虫の居所が悪いことは明らかだ。
「いい加減にしろ」
「……な、何がでしょう……?」
「とぼけるな。お前が挙動不審なせいでまともに護衛できないし、周りからも変に思われるだろ。頼むから普通にしててくれないか」
「……なんだよそれ。またおればっか意識してるみたいじゃん……」
普通にしろと言われても、それができたら苦労しない。おれだってなるべく考えないようにしてるのに、ナイトと顔を合わせるとどうしても心拍数が上がってしまうのだ。
「…………そんな顔されたら……」
「え? なんて?」
「いやなんでもない。とにかく、今日は外を移動するんだからその赤い顔をなんとかしろ。わかったな」
「あかっ……誰のせいだと思ってんだ!」
先を行く背中に向かって思い切り叫ぶも、おれの声は王宮の長い廊下に虚しく響くだけだった。
「本当におれのこと好きなのかよ」と付け加えたくなったけど、まるで好きと言って欲しくてわざと尋ねてるみたいだと気づき、口を噤む。
「ちくしょー、ナイトのやつ……」
こんなに心臓を酷使する日々があっていいのだろうか。
どこか悔しさを覚えながら、もう遠くなったナイトの背中を追いかけ走った。
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