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第20話

馬車に揺られること数分、おれとナイトはレフィシーナの港町・ギオニーへと降り立った。 「いやー、久々のギオニーだなぁ」 生温い潮風が額を撫で、前髪がさわさわと揺れる。せっかく来たんだし、海の幸でも堪能して行きたい。 「なぁナイト、海も――」 「おい、こっちが先だぞ」 「……もー、わかってるって。終わった後で海行くからな!」 そう、今日ここへ来たのは他でもない、オーケストラを鑑賞するためだ。 ギオニーは楽都としても有名で、音楽学校や楽堂が多く点在している。急遽、二十五歳以下のメンバーで構成された楽団を鑑賞することになったのだ。 主催者に挨拶を済ませホールに入ると、途端に辺りが騒がしくなった。一般客もそこそこ入ってるから、特別席でも簡単に気づかれてしまう。 「ルーゴ様ー!」 「あはは。皆んな目がいいなぁ〜」 「こら、あまり身を乗り出すな」 ヘラヘラと笑いながら手を振っていたら、ナイトに叱られる。人が多い場所ではいつにも増して周りを警戒するナイトだけど、正直誰かが危害を加えてくるとは思えない。 少しくらいリラックスすればと口を開こうとした時だった。 「あ! ナイトぉ〜!」 下から声がしたので覗いてみると、青年が二階席のこちらを見上げて大きく手を振っている。 見覚えのないその顔をじっと見つめていたら、ナイトが身を乗り出して彼と話し始めた。 「エティオ……お前も来てたのか」 「うん。びっくりしたぁ、来るならこの前言ってくれれば良かったのに」 「急遽決まったからな」 親しげな様子からナイトの友達だろうと予想できる。ナイトはおれの専属従者になる前に軍学校へと通っていたので、その時に出会ったのかもしれない。 「友達か? 降りて話してきていいぞ?」 「お前を一人にさせられるか。別にいつでも話せるしいいよ」 「ルーゴ様ぁ、ご挨拶したいのでそちらに行ってもいいですかー?」 「おー、いいぞー!」 二つ返事で頷くと、階段を登ってきた彼が胸に手を当て軽くお辞儀した。 「わぁ、お目にかかれて光栄です。ナイト、ルーゴ様の従者って本当だったんだ……」 「嘘だと思ってたのかよ」 「だぁって普通は信じられないよ、王子様の護衛だなんて」 間近で見て直感した。彼の第二の性は、多分オメガだ。 華奢な体つきとその美しい顔が何よりの証拠。丸く大きな瞳が瞬きをする度、長い睫毛が頬に影を落とす。透けるような肌は彼が男であることを忘れそうな程だ。 「というか、名前くらい名乗ったらどうだ?」 「あ、そうだね。申し遅れました、エティオと申します」 「エティオか。おれはレフィシーナ王国第一王子のジオ・ルーゴだ。よろしくな」 「あはは、知ってますよ」 「ところで……二人は軍学校で知り合ったのか?」 軍の入隊には身体的特徴を憂慮して規定が設けられていて、オメガは一定の条件をクリアする必要がある。ただこの条件がかなり厳しいから、そもそもオメガが入隊を希望することなんて滅多にない。 だから軍学校時代の友達というわけではなさそうだけど、それ以外で知り合える場所なんてあったかな。 「いえ、ナイトとは――っぷ」 「……こいつはまぁ……レイウスさんの知り合いで、それで話すようになっただけだ。というかもう始まるだろ、お前は自分の席に戻れ」 「……えへへ、終わったらまた来るね」 何か言いかけたエティオの口を塞ぎ、言い淀みながら答えるナイト。 普段は嫌というほどズバズバ言うくせに珍しい……というか、何か隠してる気がする。 そんな疑心を胸に抱いたまま、演奏会が始まろうとしていた。

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