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第23話 side.K

賭博に興じる大人達の叫び声や、それらを誘い込む娼婦の甘い声がそこらじゅうに響いていた。立ち込めるアルコールの香りと陽気な音楽が、一気におれの罪悪感を掻き立てていく。 「……レイウスさん、やっぱりおれ――」 「怖気付いてんなよナイト。大丈夫、酒入れたら何も考えられなくなるぜ」 「……悪い大人っすね」 入った酒場は比較的健全な所で、おれが未成年だとわかると弱めの酒を出してくれた。尤も、本当に健全ならすぐにでも追い出すだろうが。 「あ、美味い」 「だろ? ここは穴場だから覚えておくといい。店員にも腕のいいバイオリニストがいて……」 「あれ、もしかしておれのことー?」 「おぉ、エティオ」 バックヤードからひょっこりと顔を出した、華奢で童顔の男。これがおれとエティオとの出会いで、第一印象はとにかくよく喋る酒場の店員、ただそれだけだった。 「レイウス悪いんだぁ、また未成年連れてきて」 「お前もついこの前までそうだったろ。それにナイトはその辺のガキとは違うぜ」 「へぇ、ナイトっていうんだ。綺麗な顔してるね」 「……どうも」 客も疎らになって来た頃、エティオがバイオリンを聴かせてくれた。豊かに響くその音色が耳から入ってきて、脳で溶けて、おれの心をじんわりと暖めていく。 酒が入っていたこともあり、おれは普段より饒舌だったと思う。 「……えっ、ルーゴ様の護衛!? 凄いじゃん!」 「まだ正式じゃない。軍で腕を磨いてクーゴ様に認められないと……。早く強くならなきゃいけないんだ」 「ふうん。じゃあこんなとこ来てる場合じゃないでしょ。ルーゴ様が知ったら悲しむよ」 「…………どうせ明日は休みだし……それにルーゴは何とも思わない。好きなのは……おれだけだから……」 身体の熱に浮かされて、おれは思わず口走っていた。 エティオがクスクスと笑ったことに少しムッとしたのを覚えている。 「わかった、寂しんだ?」 口の端を上げて揶揄うようにそう言うと、エティオはカウンター越しにおれの頬を撫でた。 「ちょ、なに――」 「おれが相手したげようか」 「はぁ……?」 「キミのこと気に入っちゃった。レイウスは見ての通り潰れてるし、おれももうあがりだから。ね、家までおいでよ」 「いや、おれは……」 報われなくたっていい、傍に居たい。そう思って従者という道を選んだはずなのに、どうして欲望は際限なく湧き続けるのか。 ルーゴに触りたい。抱き締めてキスをして、組み敷いてしまいたい。こんな愚劣な気持ちを抑え、耐え忍んだその果てに何があるのだろう。 “辛いだろ、想い続けるってのも” “寂しんだ?” そうだ。好きで好きで堪らないのに、この気持ちが日の目を見ることは一生ない。 おれは覚悟が足りてなかった。だからエティオを利用した。気づけばその手を取って握り締めていたのだ。 「ん、行こっか」 突っ伏して眠るレイウスさんに書き置きを残して、おれはエティオの家へと向かった。

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