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第24話 side.K
腕を引かれやってきたエティオの家は、こじんまりとしていて天井も低かった。置かれているテーブルやベッドは年季が入っていたけど、手入れが行き届いていて綺麗にされている。
王宮や軍寮とは似ても似つかない部屋なのに、おれの気持ちは妙に安らいだ。
「狭くてごめんねぇ。あ、お水いる? 汲んでこようか」
「いや……あのさ、家族は?」
「いないよ、一人暮らし」
「……そうか」
「そんなことより座りなよ、ほら」
小さなベッドに腰掛けたエティオが、隣に座るようおれを促した。窓から忍び込む青白い月明かりが彼を照らして、その白い肌はまるで発光したかのように輝く。
手首を引き寄せられて隣に座ると、暗い部屋にベッドの軋む音だけが響いた。
「おれをルーゴ様だと思いなよ。身代わりにしていいからさ」
「身代わり……?」
「そう。ナイトの好きにしていいよ」
ルーゴの代わりなんていない。
すぐにそう言いたいのに、エティオの眼差しが余りにも優しくて言葉が出ない。甘く柔らかなその笑みに誘い込まれるように、おれは彼の手を握り返した。
「ほんとに、いいのか」
「……ふふ、もちろん」
溶けそうなエティオの笑顔に、ルーゴの顔を重ねてみる。
はねやすい赤茶の髪。眩しくておおらかで、向日葵みたいな笑顔。よく通る無邪気な声。嘘をつく時に増える瞬き。背負うものの大きさを理解した背中。
勉強嫌いのくせにやけに物覚えがいいところ。肝が据わっているところ。照れると口が悪くなるところ。誰にでも素直に気持ちを伝えるところ。王子という立場に囚われすぎていないところ。誰よりも優しいところ。
おれなんかを信頼してくれるところ。
ルーゴの全てが、堪らなく好きだ。
「……ルーゴ…………」
ゆっくりと頬を引き寄せてキスを落とす。エティオの高い体温が心地よくて、腰にそっと手を回した。
「ん、ぅ……」
唇を割って舌を入れると口付けがより深くなる。それに伴い頭の芯が痺れると、身体が徐々に熱くなっていく。
細い首筋に噛み付いて皮膚を吸い上げると、エティオが小さく喘いだ。彼の肌は柔らかく、不思議と甘かった。
「あっ、ん……」
「……ルーゴ…………っ」
おれは本当にルーゴを想像していた。さっき出会ったばかりの男を抱くのは、おれの気持ちに対する弔いでしかなかった。
鎖骨を舐め上げて、肩口に顔を埋める。そのままベッドに押し倒し、再び口付けをしようとした時だった。
“――ナイト!”
「……!!」
一瞬だった。その一瞬で目が覚めた。記憶の中のルーゴが、確かにおれを呼び止めたのだ。幼い頃から変わらない無垢な笑顔で、人の気も知らないで。
「ナイト…………?」
「……っ、ごめん。やっぱり……無理だ…………」
「え……」
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