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第25話 side.K
零れ落ちた言葉は、本音以外の何物でもなかった。
「……そっか」
「ごめん……」
「なんで謝るの、いいって」
何に対してなのかよく分からない謝罪を、エティオは笑って受け入れてくれる。
自分でも何がしたいのかわからないが、一瞬でも迷うくらいならやめた方がいいと思った。
ここでエティオを抱いても、ルーゴへの気持ちが消えることは無いのだから。
「それだけ好きってことでしょ? ルーゴ様のこと」
「…………」
「別にいいじゃん、好きになっちゃダメな人なんていないよ。死ぬまで好きでいたら」
「死ぬまでって……」
エティオのあっけらかんとした様子がおかしくて、おれは思わず「図々しいだろ」と笑った。
それから上体を起こして、また二人でベッドに腰掛ける。酔いも覚め思考がクリアになったところで、もう一度エティオに謝罪した。
「だからいいってば。おれのことは気にしないでよ、慣れてるし」
「慣れてる?」
「おれ男娼なの。オメガを犯したいっていう男達の為に働いてんの」
「え……そんな店あるのか」
「まぁ珍しいけどねー、オメガ自体も少ないし。でも聞いてよ、おれ店で一番の稼ぎ頭だよ」
「……それ、嫌じゃないのか」
口にした後で、無神経で配慮に欠けた質問だと気づいた。見ず知らずの人に男色を売るなんて、仕事とはいえ誰だって嫌に決まってる。
でもエティオは、嫌な顔一つ見せずに淡々と話し始める。彼はおれが思っていた以上に大人だった。
「んー、最初は嫌だったはずなのに、そういうのもう忘れちゃった。お金稼げるし、お兄さん達には可愛がってもらえるし……」
「酒場の稼ぎだけじゃ生活できないのか?」
「…………うん。父親がね、借金残して出てったんだって。もう顔も知らないんだけどさ。母さんはおれを育てるのに必死だったから、無理が祟って数年前に死んじゃった」
「…………」
自分で尋ねた癖に、なんて声をかけたらいいかわからなかった。
彼は、この小さな家でどれほど辛い夜を乗り越えてきたのだろう。そう思い芽生えたのは、同情ではなく妙な仲間意識だった。
「……おれと同じだ」
「え?」
「おれは両親の顔を知らない。戦争孤児らしいからな」
「え……」
隣国のハイルアド帝国は、何十年もの間断続的に内紛が続いている。おれが生まれた年は特に武力衝突が激しく、レフィシーナに逃げ込む人が多くいたらしい。
おれは戦争孤児として軍に引き取られ、そのまま十数人の子ども達と王宮の近くの施設で育てられた。と言ってもこれは赤ん坊の頃の出来事なので、全てクーゴ様から教わった話だ。
「――で、その施設にはしょっちゅうルーゴが遊びに来ていて、すぐに仲良くなった」
「へぇ……。良かったね、内戦なんかで死なないで」
「ふ、はは。そうかもな」
エティオの底抜けに楽観的な性格は、話していてとても気が楽だ。
ルーゴへの気持ちを隠さなくてよくて、生い立ちを語っても無理やり同情しない人なんて、レイウスさん以外で初めてだった。
「でもそっかぁ、ナイトも家族が居ないんだ……。なんか似てるかもね、おれ達」
「確かにそうかもな」
「ね、また遊びに来てよ。今度はこんな狭い家じゃなくてさ、安くて美味しいお店紹介するよ」
何も考えずにただ遊ぶなんて、この頃はあまりなかった気がする。従者になりたいという気持ちだけが焦り、休みの日もトレーニングばかりだった。
「……あぁ、また来る」
そう答えたらなんだか、逃避場所のようなものを貰えた気分だった。
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