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第26話 side.K

それからというもの、暇ができたらエティオのもとへ遊びに行くようになった。遊ぶと言っても二人とも金がなかったから賭博には手を出さず、ただ安い酒を飲み交わしたり朝までエティオのバイオリンを聴いたりするだけ。 でも別に構わなかった。むしろそんな穏やかな時間があったからこそ、二年間腐らずに従者を目指すことができたのだと思う。 正式に従者になってからは時間がなくて会えてなかったが、この前の休暇の時にエティオが働く酒場を訪ねてみた――。 * 「いらっしゃい……て、あれ!?」 「……変わらないな、エティオ」 「わ〜ナイト! 久しぶりじゃん、何してたの?!」 エティオはおれに気づくなり瞳を輝かせ、すぐこちらに駆けてきた。約一年ぶりに会うが、変わったところと言えば少し髪が伸びたことくらいだ。 「正式に従者になったから」 「えー! すごいすごい! 待ってね、もうあがりだから。今日はおれが奢るよ」 「いいって。それより頼みがあるんだが――」 用件を伝え店の外で待っていると、バイオリンケースを抱えたエティオが裏口から出てくる。そのまま彼の家まで、並んで夜道を歩き始めた。 ガナディアは相変わらず騒がしいところけど、それもまた一興だなんて思えるのはおれがこの街に慣れてしまったからだろうか。 「……あのさ、ほんとにいいの?」 そうふと呟いて、どこか心配そうな表情でこちらを覗き込むエティオ。 「どういう意味だよ」 「だってルーゴ様が寂しがるんじゃない? 二週間もいなくなるなんてさ」 「いなくなるって、休みなんだからどう使おうとおれの自由だろ。それに……」 それに、おれが居なくて寂しがる姿なんて想像もつかない。むしろいつも口うるさい従者がいなくて清々してるんじゃないか。 「それに、寂しいのはおれだけだ〜って?」 「……そんなこと言ってないだろ」 「顔が言ってるもーん」 相変わらず勘が鋭い男だ。エティオと話していると、自分の心の中が透けているんじゃないかと思う時がある。 アリア様との婚約は、きっとほぼ確定だろう。彼女だけがルーゴと等身大で話せていたし、何より傍から見てとてもお似合いの二人だった。聡明で控えめな彼女は人当たりも良く、国民からも支持を得るに違いない。 いずれこの国を背負う妃の誕生だ、従者であるおれが一番に祝うべきなのに。湧き上がったのは嫉妬と羨望、そして(あるじ)への自責の念だった。おれの覚悟なんて、いとも簡単に揺れたのだ。 こんな従者でごめん。そう思えば思うほど、ルーゴから離れる選択肢が頭を過ぎる。 “ナイト、従者として慣れてきた頃に悪いが……軍に戻る気はないか。ハイルアド帝国の内戦が激化しててなぁ、近隣国に被害が及んでいるらしい。軍の将官達もお前の腕を頼りにしてるんだ。今すぐじゃなくていいから、考えてみてくれないか” もういっそ、このまま軍に戻ってしまうのも……。 「……ト、ナイト!」 「あ、悪い……。なんだ?」 「そんな怖い顔しないでよ、せっかくの再会なのに。話なら家で聞くからさ」 「……あぁ、そうだな」 エティオの拗ねた声にはっとして、おれはとりあえず考えることを放棄した。

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