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第28話

「――それをお前に止められたのは悲しかったけど……怒ってないよ、ナイト」 そうか、おれは悲しかったのか。自分で言葉にしてやっと気づくことが出来た。 ナイトは何を思ったのか、憂いを帯びた瞳でおれを見つめる。こっちが切なくなるくらい、思い詰めた表情だった。 「……ごめん、詮索って言葉は間違ってた。反省してる」 「いいよ、何か事情があったんだろ? よっぽどエティオのことが大事なんだな」 そうだ、ナイトはあの時確かにエティオをおれから「護った」のだ。おれ以外の誰かを護るナイトなんて、初めて見た気がする。 「大事というか、友達だから」 「うん、そうか、そうだよな……」 ナイトがはっきりと友達だと言うのも、なんだか珍しかった。 考えてみれば、おれはナイトのことを何でも知ってる訳じゃない。 幼なじみと言っても、おれ達の間には離れていた期間がある。ナイトが従者になる前、施設を出て軍寮で暮らしていた頃だ。たまに会って話すくらいだったから、ナイトがどんな生活を送っていたのかや、彼の友人についてはまったくわからないのだ。 もしかしたら、エティオに出会ったのはその時期かもしれない。 おれはソファに腰掛け、ナイトへ隣に座るよう促した。 「なぁ、教えてくれよ。エティオってどんな奴なんだ? 言いたくないことは言わなくていいからさ」 「そうだな……。一つ言えるのは心から音楽が好きだってこと」 「あー、さっき嬉しそうだったもんなぁ」 プロの奏者を目指すくらいだ、きっと本人の腕前は相当なものだろう。 いつか彼の演奏を聴いてみたい。おれは歌が好きだから、バイオリンに合わせて歌うのも楽しそうだ。 ナイトは穏やかな表情のまま、エティオについて教えてくれた。 「それに、あんななりして酒に強い」 「へぇ〜、 それは意外だなぁ。ナイトより強いのか?」 「あぁ。この前なんかおれが寝てる横で朝まで飲んでたらしいからな」 「…………え?」 思わず目を瞠った。 何も察せないほどおれも馬鹿じゃない。少しずつ心拍数が上がっていく中、恐る恐る口を開いた。 「もしかして……休暇の時はエティオの家に泊まったのか?」 「……あぁ、二週間泊めてもらった」 「……!」 ナイトは、どこかばつの悪い様子でそう告げた。 その表情を見て更に、鳩尾の辺りがぎゅっと痛んだ。心の中をぐちゃぐちゃに掻き回されたような感覚を覚える。どうしてこんなに動揺しているのだろう。 それほど仲が良いなんて知らなかったとか、エティオもよく許したなとか、二人でどんな夜を過ごしたんだ――とか。 言いたいことは沢山あるのに、なぜか何も言えない。最近のおれはちょっとおかしい。ナイトに言えないことなんて、何も無かったはずなのに。 「……ルーゴ? どうした?」 「……っ」 おれの知らないナイトを知っているエティオ。二人きりで過ごした夜があるという事実。それを知って、堪らなくショックを受けている自分。 こんな感情、おれは知らない。 「……れのこと……のか」 「え?」 「おれが好きなんじゃないのかよ、おまえ……」 そう絞り出した声は、情けなくも震えていた。

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