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第32話
「だよね? じゃあ幸せそうな国王と不幸そうな国王。どちらがより国民から支持されると思う?」
「そりゃ、幸せそうな国王に決まってる」
「ほら、もう答え出てるじゃん」
「え……どういうことだ?」
言葉の真意が掴めず困惑していると、ユノは頬杖をついておれをじっと見つめた。
「まずはルーゴが幸せにならなきゃってこと」
「……おれが?」
「君さ、自分のことも幸せにできないのに、誰かを幸せにしようなんて思ってないよね?」
「…………!」
ユノのその言葉が真っ直ぐ届いて、おれの胸を強く揺さぶった。
“レフィシーナ王国の国民全員が幸せに暮らせるように――”
この国の住民を一人残らず幸せにしたい。ずっとそう思っていたし、実際、それを目指して国を動かすのが王としての務めだ。
でも、それならおれの幸せは何処にあるんだろう。そして、誰がおれのことを幸せにできるんだろう。
「……つまりね、君はもっと我儘になってもいいってこと。恋愛くらい自由にしてもバチ当たらないよ」
「……そう、なのかな……」
「そうだよ、僕なんてやりたい放題やってるし。王子である前にただの男だからね」
同じ王子という立場のユノにこうもはっきり言われてしまうと、もう何も言えなかった。彼の言葉に導かれるように、がんじがらめになっていた思考が少しずつ解けていく。
――おれを幸せにできるのは、おれ自身なんだ。
そうか。おれはただ、誰かに許して欲しかったのかもしれない。自由に人を好きになることや、心の底から何か欲することを。
「……そっか、そうだよな。ありがとうユノ、なんか吹っ切れた気がする」
ナイトが好き。これがおれの素直な気持ちだった。おれの為だけの、我儘だけど大切な想いだ。
「ふふ、そうそう。何も考えない方がいいと思うよ、君は」
「な……おれだって実は結構考えてんだよ、こう見えて」
「考えすぎは良くないってこと。ほら、もうここはいいから彼のところへ行きなよ。父さん達はあんな感じだしさ」
ユノが目線を移したその先には、顔を赤く染めほろ酔い状態の国王が二人。
「……いいの?」
「もちろん。僕のことは気にしないでいいから、行っておいでよ」
「……ありがと! いつか必ずお礼する!」
ウインクで送り出してくれたユノに甘えて、おれは入口付近に立つナイトのもとへと向かった。
「ナイト!」
「……どうした? 何かあったのか?」
「ちょっと抜ける。ナイトも来て」
「え、おい……っ」
ナイトの腕を引っ張り応接間を出て、おれの部屋へと連れ出した。
さっきまでの賑やかさとは打って変わり、二人きりの空間は静寂に包まれる。聴こえてくるのは耳元で鳴る自分の鼓動の音だけだった。
「で、なんだ? 今じゃなきゃダメなのか?」
「……うん」
王子と従者だとか、男同士だとか、アルファとベータだとか。そんなくだらないものに振り回されて、大事なものが見えてなかったんだ。
おれの幸せは、おれしか掴めない。
ナイトに向き合って、彼の手のひらを強く握り締めた。
「…………ナイト、好き」
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