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第37話 side.K

「……従者としてあるまじき発言だということは、理解しています」 「…………」 ニーニャ様は頷くでも首を振るでもなく、ただじっと、おれの眼差しを受け止めてくれている。 「それでも、どうしようもなくルーゴが好きなのです」 自分で言っておきながら、王妃に言う台詞じゃないよなと思う。伝えたいことは沢山あったはずなのに、上手く言葉にならなかった。 我儘で身勝手で、衝動的だと思われるだろうか。 そんなおれの不安を感じ取ったかのように、ルーゴは手のひらを強く握ってきた。たったそれだけのことで勇気が湧いてくるなんて、おれも大概単純なのだ。 「……どうか、二人で共に生きていくことをお赦し頂けないでしょうか」 「…………」 「母さん、おれからもお願いします」 ルーゴと二人で、頭を下げる。 長い沈黙の後、ニーニャ様が静かに息を吐いたのがわかった。 「…………それで?」 冷ややかで鋭い声だった。さっきとはまるで違うその響きに思わず息を呑み、喉の奥がヒュっと鳴る。 そっと顔を上げ彼女を見ると、母親ではなく王妃の瞳でこちらを見つめていた。 「好きなのも、愛してるのも、ずっと一緒にいたいのもわかったわ。でもその先は? ルーゴ、あなたは一国の王子なのよ?」 「そ、れは……」 「いずれは王になるの。この国の王に」 その語気の強さに、自然と背筋が伸びる。 「国民は納得してくれるかしら? 他国からの印象は? 子どももできないけど、王位の継承はどうするの? もちろん考えているわよね?」 「……っ、えっと……」 次々と矢継ぎ早に訊ねられ、おれ達は言葉に詰まってしまった。 何か言わなければと思うのに、気持ちばかりが焦って頭が働かない。それどころか、何も言い返せないという事実が、ただでさえ足りない自信をさらに奪っていく。 王子と従者が恋愛するなんて、やはり無理な話だったのだ。少し考えれば、いや、考えなくてもわかるはずなのに、心のどこかでニーニャ様なら赦してくれるだろうと思っていた。身の程も弁えずにここまで来てしまった自分が、恥ずかしくて堪らない。 自分の甘さを痛感し唇を噛み締めていたら、ニーニャ様は楽しげに笑い始めた。 「ふふ、こんなところね」 「…………え」 「あー、おっかしい。ねえ、もしかして私って演技が上手いのかしら?」 「え……っと、あの……」 「二人とも可哀想なくらい怯えるんだもの。そんなに驚いた?」 そう平然とした様子で訊ねるニーニャ様は、もうすっかり母親の顔に戻っていた。 ……どうやらおれ達は彼女の芝居にまんまと嵌められたみたいだ。 状況を理解したルーゴがわなわなと身を震わせながら、絞り出すような声を上げた。 「演技ぃ……?!」 「母さん、退位したら舞台女優にでもなろうかしら? ねぇどう思う?」 「あ〜もう! 絶対ふざけてるだろ! おれ達は本気で――」 「ふざけてなんかいないわ。具体的に指示を出してあげたじゃない」 「……指示?」

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