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第39話
辺りは日が暮れ始めていて、橙に染まる夕焼けの空が眩しかった。
「じゃあ母さん、おれ達は王宮に戻るから」
「ええ、またいつでも遊びに来て。ナイトも、ルーゴのことで何か困ったらここへおいでなさい」
「も〜、まだ言うのかよ。困らせたりしないって」
「ふ、はは」
さっきから母さんとナイトの二人が手を組んだように、これでもかと言うほどおれをからかってくる。それなのに全く怒る気になれないのは、ナイトがずっと笑っているから。普段は滅多に笑わないくせに、今日はやたらと無邪気に笑うんだ。
きっと母さんの前だと少し幼くなるんだろうなぁ。そう思ったらこの男がなんだか可愛く思えてしまって、怒りなんて沸いてこなかった。
「へへっ。ま、そうだよなぁ、うんうん。わかるぞ〜ナイト」
「なんだよ急に」
「我が息子ながら心配になるわ……」
おれの言動を見て憂う母さんに手を振り、おれとナイトは王宮へと歩き始めた。
*
「はー、なんか疲れたな……」
王宮に着くと、肩の荷が降りたせいか疲労感が一気に襲ってくる。自覚はなかったけどどうやらおれも緊張してたみたいだ。
ベッドに身を投げ出して意味もなくごろごろと転がっていたら、すぐにナイトから叱られる。
「こら、シワがつくだろ。寝るなら着替えてからにしろ」
「んん……」
「というか、寝る前に食事だな。昼は軽食だったから夕食はきちんと食べなきゃダメだ」
「んあー、わかってるって」
ナイトのまめなところは嫌いじゃないし、何よりだらしないおれに代わって体調やスケジュールを管理してくれてるのだから、感謝もしている。
でも……。
「明日は孤児院への訪問がある。いつもより早く起こすからな」
「……なぁ、ナイト」
「おい、聞いてるのか――」
「おれ達って恋人になったんだろ」
もうお前は、ただの従者じゃないんだぞ。
今日くらい余韻に浸ってもいいはずなのに、ちっともそれらしい雰囲気にならない。
突っ伏していたベッドからそっと顔を上げると、ナイトは呆然と立ち尽くしていた。
「…………」
「え、何その反応……」
「あ、いや――」
「恋人だって思ってたの、もしかしておれだけ?」
まさかとは思ったけど、この様子だと有り得る。「愛しています」だなんて言ったくせに。おれ、嬉しかったのに。
ナイトとの温度差にじわじわと恥ずかしさを覚え、ブランケットを引っ張りつま先から頭まで覆い隠した。
「おい、待て。ルーゴ」
「うるさい、おれはもう寝る!」
「だからその前に食事だと言ってるだろ」
「いらない」
「ダメだ」
「腹減ってない」
「嘘つけ」
「〜〜っ、嘘じゃな――」
子どもみたいな言い合いに耐えかねて、起き上がり抵抗しようとしたその瞬間。
ナイトの香りに包まれ、抱き締められていることに気がついた。
「……っえ、ちょ、ナイト……」
「……ごめん。正直、お前があんな風に言ってくれるとは思ってなくて、驚いただけだ」
「え……」
「幼なじみから恋人になるまで、時間がかかるだろうと思っていたから」
そう言ってナイトはベッドに片膝をつき、より強い力でおれを抱き締める。その重みでベッドが少し沈むと、なんだか堪らない気持ちになった。
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