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第40話

「おい、ナイト……」 「恋人だって思っていいなら、今すぐにでも――」 背中に回されていた腕が解かれる。そしてその両手は、慈しむようにおれの頬をそっと包んだ。 いきなり至近距離で見つめられ、身体が熱くなるのが自分でもわかった。その瞳に貫かれたら最後、もう目を逸らすことなどできない。 これは、もしかして――。 「……っ」 ぎゅっと目を閉じ、これからされるだろうことを覚悟した瞬間。その手のひらは離れていき、おれの両頬は熱を失った。 「――なんてな」 「…………え……?」 ナイトの呟きを合図にそっと目を開けてみると、まるで子どもにするような手つきで頭を撫でられる。 「焦らなくていい。ゆっくりでいい。お前のペースに合わせるから。だから……」 「……?」 「もっとおれを知って欲しい。従者じゃなくて、恋人として」 ナイトのことなんて、もうとっくに知ってるよ。そう言いたいのに、目の前の男が今までに見たことがないくらい優しい顔をしていたから、何も言えなかった。 初めて目にするナイトの甘い微笑みに、どうしようもなく胸が締め付けられる。 ……触れてみたい。 ふと現れたその欲望に抗えず、おれは口を開いていた。 「……うん。じゃあさ……ナイトもおれのこと、知ってよ」 「あぁ、もちろん」 「…………さっきの続き、して欲しい」 視線を彷徨わせてそう言うと、少しの沈黙の後で、「本気か」と訊ねられる。恥ずかしくて目を合わせられないまま頷いたら、ナイトはゆっくり近づいてきた。 そして、もう一度おれの頬を包んだ。まるで宝物に触るみたいに、驚くほど優しく。 「んっ……」 それは、唇と唇が触れるだけの穏やかで優しいキスだった。 おれ、ナイトとキスしてる。 そう意識した途端、急に頭が真っ白になった。 触れてるところからおれの鼓動が伝わったらどうしよう。変に思われてないだろうか。ていうか、なんか苦しくなってきたぞ……。 次々と不安が浮かんだところで、その唇はゆっくりと離れていった。 「……息止めてたのか?」 肩で呼吸するおれを不思議そうに見て、ナイトが訊ねる。 どこか余裕そうな表情が癪に障るけど、嘘をついたってどうしようもない……というより、経験がないのはお互い様だよなと開き直っておれは正直に答えた。 「……しょうがねぇだろ、初めてなんだから」 「ふっ、別に何も言ってないだろ」 「笑うな! お前も初めてのくせに!」 ナイトの動きがピタリと止まる。 おれの叫びだけが虚しく響く中、ナイトはどこかきまりが悪そうに口元を手で覆い隠した。 「…………え?」

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