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第2話
「あらー幹斗 ちゃん。久しぶりじゃない。元気にしてた?」
カラカラと音のするドアを開けると、夕方のようにぼんやり明るいと店内が覗く。
その中で桃色のドリンクをかき混ぜていたママは、俺を優しい笑顔で出迎えてくれた。
表向きにはカジュアルバーであるここは、実はゲイセクシャル用のDom/Subクラブ。パートナーのいない第2性保有者が夜、出会いや一夜限りの関係を求めて集まる場所だ。
俺は月に一度ここにきて、誰かにプレイをしてもらっている。そうしないと身体に不調をきたすからだ。
「うん、元気にしてました。ママは相変わらず綺麗ですね。」
「あらーありがとう。幹斗ちゃんみたいなイケメンに言われると嬉しいわぁー。」
「...ありがとうございます。」
ママが“はいこれ”、とSubの印である赤いリストバンドを渡してくれる。それをつけ、階段を上がると、俺は相手を探すための部屋の前に立った。
重いドアを開けると、部屋の中は薄暗い。誰もいないステージを照らすミラーボールによる色とりどりの光が唯一の道標となるその場所には、10人ほどの男性がいた。
ふと、俺の肩を誰かが掴む。
「君イケメンだね。それでSub?えっろ…。俺とどう??」
振り返った先には筋肉質な、なんというか強そうな男が立っていた。
「Strip と恥を煽るものはNG。苦痛についてはいくら与えてもらっても大丈夫。」
「…えー、羞恥なし?…まあいっか。それでもヨくしてやるよ。」
男は自信たっぷりに笑う。
「お願いします。」
俺が軽く頭を下げると、男は俺の肩を抱き、個室へと俺を連れ込んだ。
無機質な部屋の中で、男は自らのベルトを外し、片手に持った。鞭の代わりにするつもりだろう。うまく振れば薔薇鞭より格段に痛い。
「服を着たままじゃ痛みが出ないだろ?上半身くらいは脱げよ。あ、手は後ろに組んでな。」
脱ぐのはNGって言ったじゃないかと内心毒付きながら、上半身だけならいいかとジャケットと諦めてシャツを脱ぐ。
「そそる身体してんじゃん。」
俺の裸体を舐め回すように見て、男は小さく舌舐めずりをした。あからさまに性的な視線を投げかけられるのは、正直言って気持ち悪い。
…まあ、ここまできたら我慢するけど。一回だけだし。
「…あまりじろじろ見ないで。」
「なんだよかわいくねぇな。まあいっか。まずはその生意気な口を塞いでやる。」
そう言うと今度はボールギャグ をつけられた。これでもう俺は話せない。
「綺麗な顔に綺麗な身体。さぞ涙が似合うだろうなっ!!」
“パンッ”
派手な音と共に、晒された背中に衝撃が走った。
…うわ、これ、絶対あと残るやつ。勘弁してほしい。
さらに連続して何度か強く打ち付けられ、打たれるたびに叫んだ声は、ひゅーひゅーという音を立て消えていく。
男が打つ手を止めた頃には、俺は立つのさえ億劫になっていた。
「真っ赤な痕が綺麗だなぁー。痛いか?痛いだろ。」
男は愉快そうに笑って、再び俺の身体を舐め回すように見始める。
何か嫌な予感がして逃げようとしたときにはすでに男は俺のすぐそばまで歩いてきていて、俺の顎を掴んで持ち上げると、じっと俺の瞳を見据えながら、自信たっぷりな笑みを浮かべて言った。
「Strip . 全部だ。」
…多分glare 出てるんだろうな…。
そうは分かっても、さすがにglare が効かなければcommand だって効かない。
そして素面 で赤の他人に下半身を晒すなんてごめんだ。
「ごめん、それはしない約束だから。」
俺は男の手を振り払い、ボールギャグを外すと、裸の背中にシャツを羽織った。
散々打ち付けられた部分が服に擦れてひりひりと痛む。ジャケットは痛くて着ることができない。
「お前さぁー!!“Sub”のくせにcommandに従わないとか何考えてんの!?」
相手の男はひどく立腹しているようで、鞭を持っていない方の手で俺の胸ぐらを掴んだ。
…だから痛いってば。背中が服にこすれて。
「約束を破ったのはそっちでしょ。」
…本当は、上半身だって晒したくなかった。
「ちょっと顔がいいからって調子に乗ってんじゃねーよ!!!お前みたいなSubを愛せる奴なんていねーからな!!」
さらに耳が痛くなるほどの大声で怒鳴られる。
「…すみません。」
俺は一言謝ってから男の身体を突き飛ばし、部屋を後にした。
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