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第3話①
プレイの後にいつも残るのは、物悲しさとやるせなさだ。
“お前みたいなSubを愛せる奴なんていねーからな!!”
うん、知ってる。
…でも好きでこうなってるわけじゃない。
先ほどの男の言葉を思い返してはひどく傷ついて、溢れる涙を拭う気力もないまま外に出ると風が冷たい。
寒さに震えながら一歩踏み出すと、ぐらりと視界が揺らいだ。
…あれ、頭が痛い。なんだろ…やばい…
倒れる、と思ってアスファルトに身体が打ち付けられる衝撃を覚悟したが、その瞬間は訪れなかった。そのかわりに頼もしく優しい、暖かな温もりに包まれた。
「君、大丈夫?」
落ち着いた低い声が耳元で囁く。そこでようやく誰かに抱き留められたのだと気づく。
「あ、ごめんなさいっ…、わっ!!」
慌てて離れようとするも、よろめいて再び相手に身体を預ける羽目になった。
「無理せず、ゆっくりでいいですよ。」
再び穏やかな声でささやかれる。
声に誘われて見上げた先で、俺のことを支えている男と目が合った。
その瞳は深海を映したような青と黒の狭間の色をしていて、どこまでも吸い込まれそうな印象を受ける。そしてそれを見た瞬間に俺の中の、自分の知らない部分が弾けた気がした。
何かに引き寄せられるように、意思とは無関係に身体が動く。
…なにこれ、すごい気持ちいい。
「…君っ…!?」
驚いたような彼の声で我に返ったときには、俺は彼の前でkneel の体勢をとっていた。
kneel は、床に両膝をつきその間に尻を落とす女の子座りのような体勢で、Subが主人のDomに忠誠を示す基本姿勢である。
…え、なにしてるの俺…。
野外で、初対面のただ倒れかけた自分を支えてくれただけの人の前で、命令されたわけでもないのにいきなりkneelとかありえない…
ギリギリ保っている理性は必死でそう言い聞かせてくるけれど、身体が全く動かない。
今までにないくらい心臓が早く脈打っていて、胸が締め付けられたみたいに苦しい。なのに頭はふわふわと酩酊している。
…知らなかった。自分がこんな風になるだなんて。
この人に従いたいと、本能が叫んでいる。
「貴方に従いたい…. 」
自然と口から言葉が漏れた。
彼は少し困ったような笑みを浮かべ、
「とりあえず僕の家で話そうか。すぐそこだから。」
と言って俺の手を引いた。
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