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第5話⑥

「アフターケア… 」 とりあえず鸚鵡返ししてみたが、聞き慣れない言葉だ。 病気か何か…、もしかして叩いた痕のケアのことだろうか。それなら大丈夫だ。いつももっとひどい痕を残されていた。由良さんはちゃんと加減してくれたようで、今は少しヒリヒリするくらいで、座っていてもほとんど痛くない。 「大丈夫です。…あの、すぐに治ると思うので。」 「… 」 なかなか返事が来ないので由良さんを振り返ると、なんとも言えない表情をしている。 「幹斗君、アフターケアの意味、わかってる…?」 …ということは、どうやら理解違いをしていたらしい。 「すみません、わかりません。」 「アフターケアは、プレイの後にDomがSubを労ること。 Subはプレイ中の負担が大きい分、プレイの後はなんでもしてほしいことを言っていいんだ。なんでもは無理だけど、出来る限り叶えるから、僕にしてほしいことを言ってごらん。」 初耳だった。 そもそも今まで相手をしてもらったDomには“Subのくせにプライドが高い出来損ない”、“見た目だけはいいサンドバック”などといわれ煙たがられていたため、プレイの後はすぐに解散していたから、そんな行為知らない。 して欲しいこと、といわれてもよくわからないし…。 「あの、大丈夫です。俺、プレイしてもらってすごく嬉しかったので。」 「だめだよ。ちゃんとケアしないと精神に大きなダメージをきたすから。」 由良さんの声は頑なだ。 してほしいこと、してほしいこと…。 一生懸命に考えて、そう言えば、と思った。 由良さんに褒められたり、頭を撫でられたりするとすごく幸せな気分になる。 「褒めてください。たくさん。俺、由良さんに褒められると嬉しいです。」 由良さんが驚いたように目を見開いて、そして口元を押さえた。 もしかして俺、変なこと言った…? しかしすぐに強く抱きしめられ、頭をくしゃくしゃに撫でまわされた。犬にするみたいに。 「すごく頑張って偉かったよ。一生懸命Lick(舐める)してるところも、恥ずかしそうに裾をまくるところも可愛くて、危うく行きすぎてしまうところだった。 幹斗君のおかげでとても満たされたよ。またしようね。」 幸せに酔って頭がふわふわと気持ち良くなる。褒められすぎて逆に恥ずかしくなったけれど、またしようね、の言葉がすごく嬉しくて。 そして夜、歯磨きをしてもらった後(他人に歯を磨いてもらうなんて何歳以来だろう。本当に驚いたし目の前に由良さんの顔があって気が気じゃなかった)、俺は由良さんと同じ布団で眠った。どちらがソファーで寝るかについての折衷案である。 いつものプレイ後は胸にモヤがかかったような変な感じがして上手に眠ることができないのに、今は驚くほど晴れやかな気分だ。 由良さんと同じ布団の中、温もりを感じながらうとうとと微睡んでいると、静かな波に揺られるような心地よい眠りに、すっと自然に吸い込まれた。

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