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第7話①
学祭当日。
“え、うそ、超かっこいい…っ!!”
“ね、やばい!写真撮らせて!”
…もし仮に聖徳太子だったとしても、なんて返せばいいのかわからない…。
「やっほー幹斗!!…ってうわ、めっちゃ似合ってるじゃん!
ほら女子、撮影禁止だかんね!客に禁止してるんだからダメ!!」
女子に囲まれて硬直していると、軽快に谷津が割り込んできた。谷津も衣装に着替えており、髪が赤いのと可愛い顔立ちのせいでなんだかアニメキャラみたいだ。
しかし、その服には既視感が。
「…谷津のそれ、クロスタイ以外は入学式のスーツ?」
俺は金縁の黒い燕尾服にベスト、クロスタイ、手袋とアニメキャラに出てきそうな明らかに恥ずかしい格好をしているのに、谷津だけではない、他の執事役も全員普通のスーツにクロスタイと白い手袋をしているだけだ。
「フッ、よく気付いたな!幹斗以外はみんなこれだからな!」
「風間君は執事長だから衣装にもお金かけてみたんだー!!」
谷津と女子のうち1人(たしか裁縫サークルの子だったはずだ)が顔を見合わせて“ねー”、と笑っている。
聞いてない。絶対に確信犯だ。あとで締める。
「…谷津。」
「な、なんだよ怖えな!」
静かに告げると、谷津がぴくりと跳ねた。
「ハーゲン箱。」
ここまでされたら怒っていい気がしてきたので遠慮なく言わせていただく。
「…ちなみに買わなかったら…?」
「もうご飯作らない。」
「はっ、箱なんてお安い御用!なんならファミリーサイズもつける!!」
「ゆるす…。」
「ほらみんな、そろそろ10時半だよ!」
そうこう言っているうちに昨日配られたマニュアルに書いてあった開店時間になった。
喫茶店とはいっても、契約したケーキ屋さんのケーキと常温のアイスティー、アイスコーヒーを注文に応じて出すだけだけの学祭クオリティー。
しかしドアを開けると、異様に女子率の高い長蛇の列ができている。
「おかえりなさいませ、お嬢様方、旦那様方。」
恥ずかしさを必死に噛み潰しながら満面の笑み(のつもり)でマニュアル通りの言葉を言うと、並んでいる客たちからきゃーという歓声が上がった。
…まあ学祭のノリってやつだろう。
“いらっしゃいませ”のかわりに“おかえりなさいませ”と言い、受付で注文し代金を払ってもらったケーキや飲み物を“お待たせいたしました、お嬢様(旦那様)”と言いながら渡す。
何回も言っているうちに恥ずかしい気持ちも麻痺してきて、自然に接客を行えるようになった。注文や会計を受付でしてくれるおかげで、目立ったトラブルもない。
淡々と作業をこなしていると、昼時の混雑が落ち着いた頃に、いきなり室内がざわつき始めた。
“ねーあの人かっこよくない?”
“身長高っ!モデルみたい”
コソコソと客が話しているのが気になって、入り口に目を向ける。
「おかえりなさいませ、旦那様。」
もちろんあいさつも忘れずに。
「その服すごく似合ってるね、幹斗君。」
聞き覚えのある声がして頭を上げると、そこには由良さんが立っていた。
私服な上、仕事ではないからか前髪を下ろしていて格好いいがすぎる。
「え、だれ、幹斗知り合い?」
たまたま近くにいた谷津がそれはもう興味津々な様子で聞いてくる。
「えっと… 」
なんて答えるのが正解だろう。谷津だけになら本当のことを言えるけど、谷津以外の人も聞き耳を立てている状況でそれは言えない。
なにより由良さんが俺をどう思っているかなんて、俺にもわからないし。
「いとこのお兄さんだよ。」
「なるほど!やっぱイケメンの家族はイケメンかー!なるほどなー。」
谷津は俺の背中をバンバンと叩きながら訳のわからない台詞を吐き、そのまま接客に戻った。
「こちらで受付をお願いいたします。」
俺も呆然とする由良さんに一言告げ、接客に戻る。
「お待たせいたしました、旦那様。」
「あっれー?君もしかしてあの時の可愛くないSub君?へえー、ここの大学だったんだァー。こんなところで会うなんて運命か何かかなぁ?」
…こうも上手く偶然が重なることってあるのだろうか。由良さんがこの時間に来ている確率が1/5だとして、この人が偶然ここに来てそれが由良さんのいるこの時間である確率は…
と、そんなことを考えている場合ではない。
ケーキとコーヒーを運んだ先にいたのは、由良さんと初めて会う直前に俺とプレイをしたDomで。
大勢の前でSub性だと明かされた挙句明らかに相手は臨戦態勢。
…どうすればいいんだ、これ。
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