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第7話②

固まっている隙に腕を掴まれ、そのままグイッと引っ張られる。 …痛いってば。 この人の力はとても強くて、多分このまま握られていれば痕になってしまうだろう。 お触り禁止ですよ、と責任者が出てきて注意を促してくれたが、男の強面に睨まれて何も言わなくなってしまった。 大学という場所は、自由と引き換えに大人に守られていない分、こういう問題が起こってしまうのだなとやけに冷静に考える。 いやもちろんそんなことを考えている場合でもないけれど。 「お久しぶりです。」 言いながら掴まれていない方の手でケーキと飲み物を置き、立ち去ろうと手首を捻ってみたが、男の力は強く、その腕はびくともしない。 「ああ、久しぶりだなぁ。あの日は本当に、楽しませてくれたよなぁ、いろいろと。」 男は俺の目をじっとみてそこまで言うと、一旦俺の後ろに向き直る。 「なあ、あんたこいつの従兄弟だって?おたくの弟さん、Subの癖にcommandが効かないとかどっか頭のネジ抜けてんじゃねぇの? ちゃんと教育しといてくれよー。顔だけは可愛いんだからさァー。」 男の口ぶりにまさかと思って振り返ると、やはり俺の後ろに由良さんが立っていた。 「()がお世話になったみたいですね。けれど、頭のネジが抜けているのはあなたの方だと僕は思いますよ。」 そう返す由良さんの口調は穏やかで口元は優しく笑んでいるが、声がめちゃくちゃ怒っている。 「あぁっ!?テメェ何様のつもりだごらっ!!」 「何様でもありませんよ、ただの客です。あなたと同じように。」 そう言って由良さんがにっこりと微笑むのと、男の身体から力が脱けるのが同時だった。 男の身体が震え始め、得意げだった表情が怯えに変わっていく。 「僕の弟を離してくれますね?」 こくこくと男がうなずき、俺の腕から手を離した。 由良さんは俺の身体を引き寄せ、男から距離を取らせる。 次の瞬間、由良さんと目が合い、俺も全身から力がぬけてしまった。 「幹斗君っ!!」 よろけた俺の身体を由良さんが支えてくれる。 …“defense(ディフェンス)”、という単語が頭をよぎる。 defenseは、Domが他のDomを威嚇するためにglareを放つ行為だ。 主に自分の支配下にあるSubを護ったり、他のDomに取られないようにするために行われるもので、glareが弱い、つまりDomとして弱い方は強い方のglareを受けて激しい恐怖に駆られる。 …護ってくれたんだ。 そのことにありがとうと言いたかったけれど、由良さんの強いglareに俺まで当てられてしまい、身体に力が入らない。 「一旦幹斗君を外で休憩させてもいいかな?」 駆け寄ってきた谷津に、由良さんが尋ねるのが聞こえた。 「もちろんです。場を収めていただきありがとうございます。 少し遠くなりますが、315の部屋がこの企画の控え室になっていて、今は荷物を置くだけで誰もいないので、良ければ使ってください。これ、鍵です。」 「ありがとう、使わせてもらうよ。 …歩ける?」 踏ん張ればなんとか歩くことはできそうだったので由良さんの言葉に頷き、誘導されるままに廊下へと出る。 廊下に出ると、その格好では目立つからと、由良さんが自分の着ていたカジュアルコートを着せてくれた。 「315って、…ああ、この階段を上がった先か。ちょっとごめんね。」 「!?」 次の瞬間身体が宙に浮いた。 うそ、由良さんに抱っこされてる…。 「あ、あの、階段くらい、上がれます!」 俺たちの企画に人が集まることを運営が想定したのかこの辺は人通りがほとんどないけれど、それでも誰かに見られたらまずいし見られなくても恥ずかしい。 なにより身長170以上の男だ。重いに決まってる。 「…今は黙って従ってて。」 押し殺すような低い声、口元に反して笑っていない目。 …あれ、もしかして由良さん、怒ってる…? あの男に対してだろうか、それともあの男を自分で振り払うことができなかった俺に対してだろうか。 考えているうちに控室の前までたどり着き、身体を下ろされた。幸いここまで誰ともすれ違っていない。 無言で由良さんが鍵を開け、俺に中に入るように促す。そして由良さんも入ると、そのまま中から鍵をかけてしまった。

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