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第7話③

お互いに近くの椅子に座り向かい合ったはいいものの、由良さんは何も話さず、俺も何を話していいか分からずに、無言の時間が流れていく。 「…あの、すみません…。」 耐えきれず謝ると、由良さんは困ったような顔をした。 「何について?」 「俺が、ちゃんとあの人のこと振り払えなかったから…。」 「… 」 違うらしい。けれど怒っているのはあの男に対してではなく、俺に対してだ。それはわかる。 「…僕はいつ、幹斗君の従兄弟になったのかな?」 数秒後、苦しそうな声でそう言われて、言葉に詰まる。 「それに、隠していることって、文化祭のことじゃないでしょう。ちゃんと言って。僕は君のことを、もっとちゃんと知りたい。」 あの夜から気付いていたのか、と驚いた。では俺がついた嘘を、由良さんは知らないフリをしてくれていたのか。 …けれど言えない。だってこの関係が壊れてしまうかもしれないから。 由良さんは俺にとって唯一のDomで、好きな人で、彼を失ったら俺は… 「…お願い、教えて。」 俯き告げる彼の声は、ひどく悲痛に響いた。どうしてこんなに悲しそうな声をあげるのだろう。 でも、command(命令)を使えば無理やり吐かせることもできるのに…。 そこまで考えて、俺は自分の考えを恥じた。 由良さんは無理やり吐かせることもできたのに、俺が言いたくないのを察して、俺の口から言うのを待っていてくれたのかもしれない。 そもそも俺のわがままで彼にこんな悲痛な表情をさせるなら、当たって砕けた方がいい。ほら、初恋は実らないって誰かが言ってたし。 「…俺、由良さんが好きです。パートナーになってほしいって、思ってます。 でも由良さんは男相手にそういうことできるかわからないし、…情けで俺にプレイしてくれてるのかもしれないし…俺が誰のglareも効かずかわいそうだから… 」 ゆっくりと、言葉に詰まりながら話していく。 もしこの関係が壊れてしまったらと思うとひどく怖いけれど、でも俺がこれを言うことで由良さんが安心するならこれでいい。 そもそも主人を苦しませるSubなんて失格… 「ごめん。」 俯いていた俺は、由良さんの一言で顔を上げた。 驚いたような、泣きそうな。複雑な表情で、由良さんがこちらを見つめてくる。 …うん、いいよ。 謝らなくていい。由良さんがプレイしてくれた時間は宝物になった。でも、もし叶うならまたプレイしてほしい…なんて、わがままかな。 「そんな心配をかけていただなんて。幹斗君は格好良くて綺麗だし、こんな年上の僕なんかは、glareがたまたま効いただけで、好きになってもらえるだなんて思わなくて…。 だから言えなかった。パートナーになってほしいって。」 けれど由良さんが続けた言葉は、全く思っていたのとは違うもので。俺は信じられない思いで彼を見つめる。 まさか俺の空回りだった? 由良さんも同じ気持ちだったってこと…? お互いに見つめ合いながら、沈黙の時間が流れた。 申し訳なさで胸が締め付けられそうだ。なのに、それと同時に夢みたいな事実に、心がじわりと温かくなる。 今実は本当の俺は植物状態で寝ていて、素敵な夢を見せられているだけなのかもしれない。 「幹斗君、今夜空いてる?」 ふと、由良さんが聞いてきた。 「え、…あ、はい。」 学祭直後の打ち上げは禁止だし、そもそも行く予定もないので片付けが終わったら何もない。 すると由良さんは俺の腕を掴んで俺を引き寄せ、由良さんの上に座る形にした。 「あの、重… 「じゃあ、今夜claim(クレイム)しようか。」 重いからおろして、と言おうとした途中で、由良さんが耳元に顔を近づけ、色っぽくかすれた声で囁く。 あまりに突然のことにはじめ理解が追いつかなかったが、言葉の意味を理解して身体がかっと熱くなった。 ぱくぱくと口を開閉していると、そのまま優しく頭を撫でられて。 「そろそろ戻らなければいけないね。…その前に。」 由良さんの顔が降りてきて、その見目麗しさに見惚れていたら、唇の方からくちゅ、という音がした。 視界には深海の底を映したような由良さんの深く青い瞳が入ってきて、その瞳が帯びている熱にどくりとする。 キスをしたのだ、という事実を理解したのは由良さんの唇が離れた後で、由良さんの濡れた唇と、自分の口内に残るミントの香りに気づいたから。 claimの申し出(つまり今夜セックスをするということ)を受けた挙げ句、ファーストキス…。 今にも心臓が爆発してしまいそう…。 「じゃあまた夜に。」 爽やかな笑顔で出て行く由良さんを、俺は呆然と見つめることしかできなかった。

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