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※第11話④
「Strip .」
俺の顎を親指と人差し指で優しく掴み、glareを注ぎながら由良さんが言う。
冷たいglareにふるりと身体が震えた。彼の支配が気持ちいい。
俺は自らの衣服に手をかけ由良さんに肌を晒す。彼に身体を晒すことはもちろん恥ずかしいが、それが彼の命令であるならば、羞恥さえも飴となるのだ。
…しかし。
俺は一つ忘れていた。前のプレイでつけられた虫刺されパッチのような針が、まだ胸に刺さったままなのである。
途中で思い出し、どうしてもシャツを脱ぐのを躊躇ってしまった。
「どうした?手が止まっているよ。やっぱり水の中は怖い?」
…違う。
これを脱がなければ、水槽には入れない。ぎゅっと目を閉じ、一思いにシャツを剥がす。
「…いい子。ちゃんと針もつけているね。」
「ぁっ… 」
言いながら、由良さんが突起についた針を取った。続いてすでに敏感になっているそこを、彼の指の腹が優しく押しつぶす。
信じられないような刺激が走った。嘘だ、少なくとも2週間前までそこは、こんなにも大きな快楽を生まなかったはずなのに。
「顔を真っ赤にして、ここをこんなに腫らして…。いやらしい子だね。これから幹斗はあの中に入って、この身体をじっくりと観察されながら過ごすんだよ。」
くつくつと由良さんが笑う。
恥ずかしさで顔が熱い。
思わず俯くと、“とても綺麗だよ”と歯の浮くようなセリフを耳元でささやかれ、そのまま軽々抱き上げられた。
値踏みするような由良さんの視線が、俺の身体をなぞる。
…恥ずかしくてたまらない。だって、そんなふうに横抱きにされたら、見えてしまうのだ。
赤く熟れた乳頭も、熱い身体も、そしてゆるく芯を帯びた屹立まで、全てが。
由良さんは水槽へと繋がる階段を登り、俺を檻の中に優しく降ろした。熱を帯びた身体に冷たい金属が当たる。
「鍵かけるけど、怖くない?」
プレイ中なのに優しく言われ、それが意外で驚いた。
この檻の中に入ることなど、ずっと前からわかっていたことだし、別に怖くもないだろう。
頷くと、由良さんが優しいglareとともに、執拗に頭を撫でてくれた。
時間をかけて、丁寧に。
そして檻が閉められ、鍵をかける無機質な音がした。
「水を入れている最中は、僕に様子が見えるようにしっかりと立っていてね。」
水槽の外から由良さんが俺に指示を出す。常に彼に裸体がよく見えるようにしろ、ということだろう。
俺は檻の中で立ち上がった。よく見えるようにと言われたから、一番由良さんに近い側面の鉄格子に、身体を押し付けるようにして。
「うん、よく見える。それでいい。
…じゃあ水を入れていくね。」
足元から水が少しずつ湧いてくる。火照った身体の周りを、冷たい水が支配していく。
足首が浸り、そのあとに膝が。どんどん上がっていく水面を見つめ、突然それをひどく恐ろしく思った。
先ほどのひどい酸欠の苦しみが脳裏に蘇る。
足が震え、同じように震えている手を、俺は首元のcollarに当てた。ほんの少しだけ、気分が楽になる。
…恥辱的な格好をしているはずなのに、そんなことは気にならず、ただただ怖い。
水が首まで来たとき、もういっそ水面など見なければいいとぎゅっと目を瞑ってしまって…。
そうしたら、“幹斗”、と優しい声が鼓膜を撫でた。
声の方を向いて目を開けると、視界に由良さんが映る。
彼は、水槽の外側に手をついていた。
ガラスに遮られて物理的には不可能だが、手を伸ばせば届きそうな距離。
檻から手を伸ばし、水槽越しに由良さんの手に触れる。掌に当たった感触は無機質で、それでもなぜか、温かいように錯覚した。
気づくと、水面の上昇は止まっていて。
「怖くないよ、大丈夫。ちゃんと僕が見ていてあげるから。だから幹斗は僕のことを見ていて。」
由良さんが目を細めながら柔らかく言う。
それに従って、俺は由良さんの目をじっと見つめた。
優しいglareが、先ほどまで感じていた恐怖を嘘のように消していく。
「どうする、止める?」
少しして、挑発気味に問いかけられた。もちろん俺の答えはもう決まっているし、由良さんもそれをわかっていると思うけれど。
「最後までしたいです。」
「よく言えたね。いい子。」
再び水面が動き出す。俺はそれに怯えることなく、目の前の由良さんをじっと見つめた。
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