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※第11話⑤
はじめに口が、次に鼻が塞がれ、そのあと視界がぼやけた。痛みで目を閉じた頃には、全てが水に埋まっていて。
もう息はできないのに、不思議と怖くない。
苦しさで身体はのたうちまわる。
口を押さえても尚入ってくる水が肺を支配し、呼吸を許さない。
けれどその苦しみが由良さんから与えられていると思うと、脳がふわふわする。
由良さんが俺をちゃんと見ていてくれるとわかっているから、彼に命を握られていると言う事実が、余計に快楽を大きくして。
そして長い苦痛が続いた後のとある瞬間で、ふっと苦しみから解放された。
身体が軽い。その上オーガズムに似た強い快楽の波に体が支配される。
どうしよう、なぜだかわからないけれど、すごく、
…すごく、気持ちいい。
突然遠くで、がちゃり、という音が聞こえ、音がしてすぐあとに、手首を掴まれ、痛いほど強い力で手が引っぱられた。
苦しさに、水以外のものも同時に吐くかと思うほどに激しく咳き込み、それが止まらなくなる。
苦しい。先ほどまで気持ちいいと思っていたことが、嘘のようだ。
あれほど求めていた空気が、こんなにも苦しいものだったなんて。
苦しくて苦しくて、これ以上息を吸い込んではいけないと思うのに、その考えに逆らって、身体はひくひくと浅い呼吸を繰り返した。
過呼吸というやつかもしれない。
「落ち着いて。」
由良さんが後ろから抱きしめて、背中をさすってくれる。
それでも息を吸うのをやめられず、焦って脳がパニック状態になる。けれど、その中で、突然由良さんから優しく口付けられた。
…気持ちい。
そう思った瞬間、呼吸の加速が止まる。
キスにはモルヒネの10倍の鎮静作用があるというが、確かにそうなのかも知れないと思った。
…力なく由良さんの顔を見上げると、再び甘い口づけが落とされて。
俺はただただその温もりに溺れたのだった。
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