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第12話①
「あー…、俺もう無理、頭爆発して死ぬ…。」
大量の記号が書いてある試験用ノートをバタンと閉じて、谷津がさけんだ。
「頭が突然爆発するのは物理的にありえないでしょう。」
「そうだよエネルギーは保存するもんな!!…ってそうじゃないから!!
まあ幹斗は普段から真面目にやってるし余裕だろうけど。」
いや、羨ましそうにこちらを見られても困るのだけれど。それに、俺だって決して余裕ではない。
今日は俺の家で、東弥と谷津と3人で中間試験に向けて勉強会をしている。
1週間後、合計4つの中間試験があるのだが、全て必修のため落とせない。来年さらに忙しくなる中で再履修だなんて、冗談じゃないのだ。
「俺も結構忘れてるし、解き方わからない問題あるし…。東弥、ここからここの変形ってどうなってるのかわかる…?」
「ああここ…?これは、ここで部分微分を… 」
谷津に構わず、何度計算しても合わなかったところを東弥に尋ねると、すぐに間違いを指摘してくれた。
ちなみに、後期入試で入った東弥は学部での成績がひと頭抜けている。
テスト期間になると名前を聞いたこともない人からこの問題教えてくれとLINEが来るレベルだ。彼を勉強仲間に確保できたから、俺たちは非常に運がいい。
「あっ、そうか。変数見落としてた。東弥ありがとう。」
「幹斗の力になれて嬉しいよ。」
礼を言うと、東弥は爽やかな笑みを浮かべる。
「あーお前らなにいちゃいちゃしてんの俺もまきちゃん(彼女)とイチャイチャしたいー!!」
「彼女さんと一緒にいたいのもわかるけど、谷津が留年したら俺ら寂しいから、今は一緒に頑張ろうね。ほら、ここで計算違っちゃってる。」
「うぅっ…わかった、やる…。うわ、1行目から計算し直しかぁ…。」
谷津の叫びを優しくかわしながら東弥は谷津の試験用ノートを開き、止まっていた手を再開させた。できたらいちゃいちゃしてる、の部分もついでに否定して欲しかったが。
東弥は塾講師のバイトをしており、他人に教えるのが好きなのだという。
「ねえ幹斗、ここ、こうしたらもっと楽になると思わない…?」
「…あー、でもそうするとこの条件見落としてない?」
「確かに…。じゃあやっぱりこう解くしかないな…。」
東弥が相談してきたのは、過去問の答えについてだ。4年分の過去問を解けば、似たような問題が何問が出てくるらしい。
…由良さん、元気かな。
計算ミスを直して答え合わせをしたあと、ふとそんなことを思った。
年末まで忙しいらしく、水族館でデートした時以来由良さんとは会っていないし、連絡もほとんど取れていない。
イブとクリスマスは一緒に過ごそう、と約束して、あとは生存確認のようにおはようとおやすみのLINEをするだけ。
そろそろ会いたいな。会ってキスをしたい。あの体温に抱きしめられたい。プレイをされたい。そんなことを毎日のように考えている。
もともと出会ってから由良さんのことばかりだったのに、水槽のプレイをした時から、さらに由良さんのことが頭から離れなくなってしまった。
「なーに、幹斗考え事?彼氏さんとうまく行ってないの?」
つんつん、と東弥にシャーペンでほっぺたをつつかれる。
「多分すごくうまくいってる…。会いたいだけ…。」
「ふーん、そっか。」
自分から聞いてきたくせに、意外とそっけない返事をされた。
「あっまー!!!俺ブラックコーヒー飲む!!幹斗淹れて!!」
代わりに谷津が楽しそうに過剰な反応を返してくれる。
「東弥もいる?紙コップになっちゃうけど。」
「ああ、じゃあお言葉に甘えて。」
「砂糖幾つ?」
「ブラックで。」
谷津と東弥のコーヒーを淹れ、ついでに自分用の甘いミルクコーヒーも淹れた。
そういえば由良さんの家にはコーヒーメーカーがあったな。豆も高そうだったし。
…せめて声、聞きたいな。
「幹斗ぉー…。計算合わないぃ…。」
谷津の悲痛な声で我に返る。
今は集中しなきゃ。
そして今日の目標が終わったら、由良さんにLINEをしてみようかな。
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