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第13話①

チャイムが鳴って、肩が震えた。 エプロンを脱ぎ、姿見でおかしなところがないかを確認して、深呼吸をする。 今日はクリスマスイブ。 由良さんと久しぶりに会うことになったのだが、大抵のいい感じのお店はもう予約で埋まっていて、話し合いの結果俺の部屋で過ごすことになった。 ちなみに、普段のお礼に料理は俺が作るからと啖呵を切ってしまったのだが、今になって由良さんを満足させらえるかどうか不安になっている。 ローストビーフのサラダにラザニア、ミートパイ、ジャガイモのポタージュ。一応、クリスマスの定番メニューでまとめてはみたけれど…。 いや、由良さんが来たからもうタイムリミットだし、そんなことを考えている場合ではない。 「久しぶり。ケーキ、買ってきたよ。」 ドアを開けると、私服姿の由良さんが微笑んでいた。片手にはケーキの箱を持っている。 久しぶりの由良さんだ。今日もすごく格好いい。 「あの、…狭いですが、入ってください。」 自分の部屋に彼が来ると思うと落ち着かず、変に緊張して、声の調子がおかしくなる。 「お邪魔します。」 対して由良さんの振る舞いは普段通りだ。俺だけが緊張しているようで、なんだか恥ずかしい。 …あ、ケーキのお礼言い忘れちゃった。 「手、洗うところがここで、あとはそこの座布団で待っていてください。」 今更付け足してもわざとらしいから、お礼は後で食べる前に言おう。 「丁寧にありがとう。…でも。」 キッチンに戻ろうとした瞬間、グイッと腕を強く引っ張られた。 「えっ…?」 驚きのあまり声が漏れる。 そのまま由良さんのたくましい腕に、ぎゅうっと強く抱き締められた。 「…ごめん、ちょっと補充させて。幹斗君不足。」 さらに余裕のない掠れ声で囁かれる。 「!? 」 …ずるい。不意打ちされたせいで、鼓動の加速が止まらない。 けれど、しばらく俺を抱き締めた後、何事もなかったように由良さんが普段の様子に戻ったから、俺もそのままキッチンへ戻った。 内側に溜まったこの熱は、どこに放てばいいのだろう…。 溜めたままではいずれ体の内側から溶けてしまうのではないかと思いながら仕上げを進めていく。 「すごい、これ、全部幹斗君が手作りしたの?」 テーブルの上に並べた料理を見て、由良さんは目を丸くした。 「えっと、そうです。」 「どれもとても美味しそうだ。食べてもいい?」 「はい。」 「じゃあ、いただきます。」 由良さんが家にいてさっき俺を抱き締めただなんて、夢みたいだ。 ドキドキしながらも、楽しくて嬉しくてたまらない。 クリスマスがこんなに楽しいものだったなんて。 「試験は終わったの?」 「ええ、おとといが最後の科目でした。」 「大丈夫だった?」 「なんとか。…由良さんは、お仕事大丈夫ですか?」 「うん。繁忙期で他の部署を手伝っていたのだけれど、大体恋人がいる人は今日は休んでいるしね。」 「恋っ…!?」 「あはは、幹斗君可愛い。」 他愛のない会話を続けながら、由良さんは俺の作った料理をどれも美味しそうに食べてくれた。 「これも幹斗君の手作り?」 サラダの上に乗ったローストビーフを指して由良さんが尋ねてきたので、俺は首を縦に振る。 「ローストビーフって家で作れるんだ。」 「ブロックがあれば。…って言っても、今回はローストしない作り方で作ったのですが…。」 「すごく美味しいよ。お店みたい。」 「そんな、…嬉しいです。」 由良さんはすべての料理を美味しいと言って食べてくれて、作りすぎて余ったラザニアとミートパイを持って帰ってくれないかと問うと、喜んで承諾してくれた。 「ケーキ、二種類買ってみたんだけど、どっちがいい?」 食べ終わってしばらくして、由良さんがケーキの箱を開けてくれた。 中には、2ピースのケーキが。 一つはたっぷりと苺の乗ったタルト。飴がけされた苺が艶々と綺麗で、さらに生地はスポンジではなく綺麗なピンク色のムースになっている。 もう一つは鏡面のように滑らかなチョココーティングがされたザッハトルテ。乗っている金箔がさらに美しさを際立たせていて、夜の月を連想させた。 「ケーキ、ありがとうございます。どちらもすごく美味しそうで…。」 選べない、と言いかけて言葉に詰まる。選べないはずるい。どっちか一つに決めなければ。…ああでも、どちらも美味しそうすぎる…。 見ていた由良さんがふはっ、と吹き出した。 「半分ずつ食べようか。」 「はいっ!!」 …やってしまった、と自覚した頃には時すでに遅し。 選べない上に半分ずつという提案を嬉々として受け入れるだなんて、俺は子供か。 …まあでも、どっちもすごく美味しいからいいや。 大満足でケーキを食べ終えると、いつの間にか、向かいに座っていた由良さんが俺の隣に移動している。 まずい、またドキドキしてきた。 「ねえ、幹斗君。」 …あれ。 由良さんの声音が、先程とは違う。低く、甘く、掠れていて、色っぽい。 セックスするときの声だ…。 「プレイとえっち、どっちがしたい?」 優しく肩を抱かれ、耳元で尋ねられる。由良さんの声でそんな卑猥なことを言うなんて、反則だ。 …どうしよう。食器も洗ってないのに、もうしたくて堪らない。 だって会えない間、ずっと我慢していたから。 「…どっちも、が、いいです。」 緊張しながら素直に言うと、“僕もだよ”、と由良さんが、艶やかに笑った。

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