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第16話②

「終わったー!!お腹すいたー!!ね、東弥、幹斗、この後予定ある?」 講義が終わるなり、谷津は伸びをしながら俺と東弥の方を向き、にこにこ笑顔でそう言った。月曜の授業は1、2限とも同じ教室で、教室移動がなく、3人の配置は変わっていない。 ちなみにこの後の授業は休講だ。 「4限休みだっけ?俺は何も。幹斗は?」 「…あー、家帰って寝ようかな。」 多分谷津は食事の誘いをするつもりだろう。なんとか授業は耐え抜いたが、流石に一緒に食事をするとなると怪しまれない自信がない。 「じゃあその前に一緒にご飯食べに行こー!!最近駅の近くに出来たハンバーグ屋さん、ランチのコスパめちゃくちゃいいらしくて!!」 …谷津の誘いをお断りするのにあの一言だけでは不十分だったか。 「いや、ちょっと体調悪いし… 」 もう一言付け加え得てみる。流石に体調が悪いと言われれば無理に連れて行かれることもないだろうと思って。 「寝不足でご飯食べないのは良くない!!ね、東弥もそう思うよね!!??」 しかし、谷津の反応は斜め上だった。…いやでも今回は確かに俺にも非があるか。確かに寝不足を理由にしたのは俺だ。 察してくれ、と東弥に目をやるが、あっけなくそらされてしまう。 …あれ、なんか東弥、怒ってる…? 「食事をおろそかにするのは良くないと思うよ。…それとも、本当は熱とかあったりするの?」 「いや、そんなことは… 」 ともかく逃げ道がないことだけはわかった。多分これ以上否定したら逆に怪しまれる。 「じゃ、行こー!!」 ご機嫌な様子で谷津が帰り支度を始めたので、俺と東弥もそれに習って無言で支度をしたのだった。 お店に着いて注文を終え、パンパンのハンバーグにナイフを入れた瞬間、ジュワッと透明な肉汁が流れ出して、目の前に座っていた谷津が目をキラキラさせた。 「めっっっっちゃくちゃ美味しそうじゃん!!幹斗一口ちょうだい!!」 「いいよ。はい、フォーク。」 「ありがと!!失礼します…って、んっまー!!!!!」 ほっぺたをおさえながら満面の笑みでモグモグと口を動かす姿はとても幸せそうだ。 なぜ谷津が(自分でハンバーグ屋さんって言っておきながら)オムライスを頼んだのかは甚だ疑問だが、突っ込むのはやめておく。 ちなみに俺が頼んだのはデミグラスソースハンバーグで、東弥が頼んだのは中にチーズが入っているハンバーグだ。 「幹斗、俺とも交換しない?」 「いいよ。」 隣に座っている東弥に尋ねられ、今度は東弥の方に皿を近づける。 東弥は一口含んで、美味しいね、と笑ってくれた。 正直つらい。頭痛と吐き気とこみ上げる自傷衝動を、これ以上抑えるのはもう無理だとすら思う。けれどそれを言うわけにもいかなくて。 …あ、ハンバーグ用のナイフ。あれで肌を思いきり切りつけたら、きっと… ナイフに手を伸ばし、その歯を呆然と見つめていると、突然、ナイフを持っていた右手首を掴まれた。 「…?」 ぼうっとしていて自分が周りからどう見えているのかもわからない俺は、もちろんなぜ手を掴まれたのかもわからず、首を傾げる。 「幹斗、ちょっとこっち。谷津、明日払うからお金払っといて。」 東弥の声がして、ナイフを奪われ、腕を引いてその場に立たされた。 「りょーかい!!残り全部食べていい?」 「もちろん。」 「オムライス頼んで良かったー!!」 続いて元気の良い谷津の声がする。 俺は東弥にぐいぐいと腕を引っ張られ、何故だか外へ連れ出された。 「東弥、どうした?」 聞いても返事はない。しかも何故か東弥は繋いでいない方の手で俺のリュックを持っている。 手を引っ張られながら歩くこと5分。 とあるアパートのドアの前まで来ると彼はやっと足を止め、鍵を開け、俺を中へと引っ張った。 そうして周りに誰もいなくなってもまだ東弥は口を開かず、代わりに俺の左手を持ち上げて、爪痕だらけの手の甲を晒す。 「どうした、はこっちの台詞。こんなになるまで放っておいて…。 頼ってって言ったよね?俺。」 彼の声は普段よりずっと低く、明らかに怒っているのがわかった。

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