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第2話リーちゃんと僕

ナハトは出勤する『リーちゃん』ことリオールを見送ると、ふぁぁと大きな欠伸をしながら、ペタペタと風呂場へと向かった。リーちゃんと暮らす家は古くて狭い集合住宅の一室である。狭い台所と風呂トイレ兼用の狭い風呂場、一部屋しかない部屋も狭く、単身用の小さなベッドと、2人分の服を無理矢理押し込んでいる小さな衣装簞笥、小さなテーブルと2脚の椅子でほぼ埋まっている。 ここには中学校を卒業してすぐに住み始めた。料理人になりたかったリーちゃんが家出をして、ナハトもリーちゃんについていった。リーちゃんの両親は軍人で、リーちゃんを軍人にしたかった。軍人には絶対になりたくなかったリーちゃんは、中学生の頃からずっと料理屋でバイトをして、コツコツお金を貯め、中学校を卒業すると同時に家を飛び出した。 ナハトはリーちゃんが心配だから自分も実家を出て、リーちゃんについていった。 ナハトとリーちゃんは幼馴染みだ。 この世は男女比が平等ではなく、6:4で男のほうが多い。当然あぶれる男が出てくるので、複婚や同性婚が法的に認められている。 ナハトの両親もリーちゃんの両親も男夫婦だ。 この世のは神から遣わされる神子が4人いる。神子の1人である土の神子を戴く聖地神殿がある関係で、ナハト達が暮らすサンガレア領では、公的機関で働くと、通称・長生き手続きというものを受けることができる。神子は約1000年の時を生きるので、国や神子に仕える者も、それに合わせた形で神から祝福を受けることができる。長生き手続きを受けると、その時点から老化が止まり、若い身体のままで生き続けることができる。また、サンガレアには男同士で子供をつくることができる施設がある。施設を利用して子供をつくるには、庶民の年収約10年分くらいの金銭が必要になるが、長生き手続きをして長く働いて貯金をすれば、男同士でも子供をつくることができる。 ナハトの両親は役所で働き、リーちゃんの両親は軍で働いている。たまたま施設で子供をつくったタイミングが同じで、偶然にも新居となる家族用集合住宅で隣同士だったから、自然と両家は仲良くなった。リーちゃんとは保育所も小学校も中学校もずっと一緒だ。小学校低学年の頃くらいから、リーちゃんの両親が仕事が忙しくなったので、リーちゃんは学校から帰ると、迎えが来るまでナハトの家で過ごしていた。 リーちゃんは小さい頃からキレイに整った顔立ちをしていた。運動が得意だから、しゅっと締まった身体つきをしている。ナハトはずっとぽっちゃりとした体型で、顔立ちも丸っこい印象を受けるらしい。 リーちゃんは意地っ張りな寂しがり屋だ。 口が悪いから、ナハト以外の仲がいい友達はできなかった。『格好いいけど感じが悪い』とよく噂されていた。ナハトは、リーちゃんが本当は学校の皆と仲良くしたいと思っていたことを知っている。嬉しいと反射的に悪態をつく癖があり、後からとても後悔することも知っている。 リーちゃんの両親が忙しくて中々構ってくれないのが寂しくて、でもそれを口に出せずに我慢していたことも知っている。 ナハトはずっとリーちゃんの側で見ていた。リーちゃんが料理に興味をもったのは、自分の両親の為だった。疲れて帰ってくる両親に美味しいご飯を食べさせたいと思い、ナハトの親に習いながら料理をするようになった。リーちゃんの作るご飯は優しい味がして、ナハトは大好きだ。ナハトが褒めると、リーちゃんはほんのり目元を赤く染めて、『うるさい、馬鹿』といつも言う。照れているのだ。リーちゃんはとても頑張り屋で、勉強もいつも頑張っていて成績がよかったし、料理も頑張って日々練習していた。 リーちゃんにとって、料理は大事な誰かの為にするものだった。誤解されやすいけれど、リーちゃんは本当はとても優しくて、荒っぽいことが苦手だ。たまーに余裕がある時にリーちゃんの両親がリーちゃんに剣を教えていたが、ナハトはリーちゃんが剣が嫌いなことを知っている。誰かを笑顔にできる料理の方がずっと大好きなことも。 意地っ張りで自分の親にさえ言いたいことを言えないリーちゃんだが、ナハトにはボソッと本音を言ってくれる。リーちゃんがしょんぼりしている時は、ナハトはいつもリーちゃんに抱きつく。リーちゃんの悲しみが遠くに行きますようにと祈りながら。 リーちゃんが精通を迎えた時も、ナハトはリーちゃんを抱きしめた。小学校の授業で一応習っていたが、初めて夢精してしまったリーちゃんは混乱して、泣きそうな顔でナハトの所に来た。ナハトはリーちゃんよりも先に精通していたし、自分の親から、ざっくりと口頭でだが、オナニーをして、性欲のコントロールをすることを習っていた。オナニーのことを知らなかったリーちゃんに実践を交えてオナニーのやり方を教えた。それまで経験したことがない感覚が怖くて泣き出したリーちゃんを、ナハトは抱きしめて、『大丈夫、大丈夫』と何度も繰り返しながら、リーちゃんのペニスを手で擦って射精させた。 『1人だとなんか怖い』とリーちゃんが遠回しにボソッと言ったので、一緒にオナニーをするようになった。最初のうちはお互いにペニスを触りっこするだけだったが、中学生になり、エロいことに興味津々になると、どんどんやることがエスカレートしていった。お互いのペニスを舐め合ったり、アナルを弄り合うようになり、14歳の夏に初めてセックスをした。夏休みの真っ最中で、とても暑い日のことだった。ローションは普通の店で売っている。アナルを弄るのに使うので、日頃から2人で何食わぬ顔をして買っていた。ナハトはリーちゃんにペニスを挿入されるのが気持ちよくて堪らないだけだったが、リーちゃんは痛くて泣いてしまった。泣き出したリーちゃんにおろおろして、途中で止めようとしたが、リーちゃんが『絶対最後までやる』と言って聞かなかった。 それから、親がいない隙をみて、何度も何度もセックスをした。回数を重ねると、リーちゃんもナハトのペニスで気持ちよくなれるようになった。 中学校3年生の時に、リーちゃんは親と大喧嘩した。その頃にはリーちゃんは将来料理人になると決めていた。美味しい料理を作って、沢山の人を笑顔にしたいと思っていた。そんなリーちゃんの考えを、リーちゃんの親は否定して、高等学校に進学して軍人になれと言った。リーちゃんは悲しくて、悔しくて、どうしようもなくなってナハトの所に来た。ぎゅうぎゅうとナハトの身体に抱きついて、静かに泣きながら、リーちゃんは家出を決意した。リーちゃんを1人にしたくなかったナハトは、リーちゃんについていくことにした。幸い、中学校に進学すると同時に2人ともバイトを始めたから、多少なりとも貯金があった。 それでも足りない分は、ナハトの両親にこっそり事情を話して、無利子でお金を貸してもらった。ナハトの両親もリーちゃんのことをよく知っていたので、リーちゃんとナハトの行動を止めずに、むしろ、『好きに生きなさい』と後押ししてくれた。 こっそりリーちゃんと2人で暮らす家を探し、今の家に2人で住み始めた。リーちゃんはバイトをしていた料理店で見習い料理人として働き始め、ナハトは食料品店で働きだした。 贅沢なんてできないけど、2人で頑張れば食うには困らない。10年も経てば、リーちゃんは立派な料理人になったし、ナハトも単なる下っ端店員から副店長を任されるようになった。 収入が増えても、狭い家で暮らしている。狭くて古いが、愛着が湧いてしまっていて、引っ越しをしようという話は出ない。 2人で暮らし始めて、もうすぐ13年目を迎える。 ずっと一緒に暮らしていて、セックスもするが、リーちゃんとナハトは恋人じゃない。大事な幼馴染みである。リーちゃんの側にいることは、ナハトにとっては、とても自然で当たり前なことだ。 今日もリーちゃんが作ってくれた美味しい朝食を食べ、リーちゃんお手製のお弁当を持って仕事に行く。 今日は確かリーちゃんの方が帰りが早かった筈だ。間違いなく美味しい夕食を作ってくれる。帰りにリーちゃんが好きな苺を買って帰ろう。少し時期が早いので少々値段が高いが、たまにはいいだろう。 ナハトはご機嫌に歩いて職場を目指した。

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