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第13話カーラの誕生日プレゼント選び

パーシーの誕生日の2日後。 学校へ行くカーラを見送り、バタバタと急いで洗濯をすませると、ケリーはパーシーと共に家を出た。今日はカーラの誕生日プレゼントを買いに行く。誕生日のことを聞いてから、カーラには何がいいかを考えていたが、やっといくつかの候補に絞れてきている。 「あ、ケリーさん。手を繋ぎます?」 「ん?何でだ?」 「迷子防止です。大通り以外にも路地裏の店にも行きますし」 「あー……じゃあ、はい」 「はい」 ケリーは差し出されたパーシーの手を握った。パーシーの手は、指が長く、細いが大きな手だ。パーシーと手を繋いだまま、まずはパーシーが買う予定の万年筆を売っている文房具屋に向かって歩く。 「候補がよー、筆箱と鞄と髪飾りなんだわ。どれがいいと思う?」 「んー……どれも普段使えるものですしねぇ。その3つなら、僕なら筆箱か髪飾りにします。鞄は大きくなったら使えなくなるかもしれませんけど、筆箱も髪飾りも丈夫なものを選んで、カーラが大事に使ったら大人になっても使えますし」 「だよなぁ。じゃあ筆箱か髪飾りだな」 「文房具屋でとりあえず筆箱を見てみますか?」 「おう」 パーシーと手を繋いだまま、古びた小さな文房具屋に入った。 「ここはカサンドラで1番の老舗なんです。しっかりしたものを扱ってますから、大事に使えば長く使えるものばかりなんですよ。僕が今使っている万年筆も10歳の誕生日に父から貰ったものなんです」 「へぇ。そんなに長く使えるのか」 「勿論手入れもしますし、ペン先は何度か替えてますけどね。カーラの手に重すぎない、でもしっかりとしたものを探さなきゃ」 「色は?」 「んー……黒が無難ですけどねぇ」 「あ、パーシー。あそこにある、なんつーの?臙脂色?あの渋めの赤。あれいい色してないか?」 「あ、本当だ。いい色ですね。落ち着いているけど、同時に少し華やかで。重さは……あ、そんなに重くない。太さも女性や子供には良さそうですね。ペン先も……あぁ、これなら楽に替えられますね。同じ型で他にも色がありますけど、この色が1番いいですね」 「黄色はちょっと明るすぎるしな」 「緑と青もちょっと鮮やか過ぎですね。できたらもっと落ち着いた雰囲気のものがいいですし」 「んー……でも子供って鮮やかな色が好きそうなイメージがあるなぁ」 「あー……まぁ。この型が多分使いやすいと思うんですけど……色。んー……僕はこの臙脂が1番いいと思うんですけどねぇ」 「俺もだ。カーラが好きな色は?服はまぁ、青とか緑が多いが」 「……青とか緑ですね」 「んー……でもなぁ、これ悪くないけど、ちょーっと鮮やか過ぎな気がするんだよなぁ」 「そうなんですよねぇ」 「ん。あ、あれだ。差し色?的な感じだったらよ、臙脂でもいいんじゃねぇか?服も持ち物も全部青とか緑よりも、ちょっと違う色があった方がなんかお洒落っぽい」 「そうですね。あの子は服が寒色系ばかりですから、小物はこういう暖色系でもバランスがいいですね」 「かんしょくけい。だんしょくけい」 「寒色系は青とか緑みたいな色のことで、暖色系は赤とか黄色みたいな色のことです」 「へぇー」 「よし!これにします。包装は寒色系にしてもらいます」 「おー。わりとすんなり決まったな」 「こういうのは出会いが大切ですからね。気に入ったら、それを買うのが1番です。次に買おうと思っていても、次に来たときにはなかったりもしますし」 「まぁな」 「筆箱も見てみましょうか」 「おう」 ケリーはパーシーと筆箱が置いてあるコーナーに行った。いくつもある筆箱を眺めてみたが、あまりピンとくるものがない。 「んー……どれも悪くはないんだよ。悪くはないんだけど、なんかこう……いまひとつ?カーラっぽいのが無い」 「ひたすら地味か、ひたすら派手というか華やかなデザインばっかですね」 「んー。これもさ、ものはいいんだよ。軽いし、それなりに量が入るし、彫り物も丁寧だ。でも模様がなぁ。ちょっと華やか過ぎて、多分カーラの好みじゃないんだよなぁ」 「どちらかと言えば、カーラは派手なものよりも落ち着いた雰囲気のものが好きですからね」 「そうなんだよ。でもよぉ、こっちの落ち着いてる感じのは、逆に落ち着きすぎて面白くないというか、地味過ぎるというか……。んー……ピンとくるのがねぇな」 「違う店に行ってみますか?」 「うん」 パーシーが会計を済ませ、万年筆をキレイに包装してもらってから文房具屋を出た。午前中いっぱい他の文房具を扱っている店を回ってみたが、ケリーがピンとくるものはなかった。 休憩兼ねて昼食をピッツァの店でとる。熱々のピッツァを頬張りながら、ケリーは少し難しい顔をした。 「ねぇなぁ。筆箱。これ!っていうのがよぉ」 「そうですねぇ」 「時間に余裕があれば特注すんだけどなぁ。誕生日知ったのも思いついたのも遅かったしな。流石に今からじゃ間に合わない」 「髪飾りを見て回りますか?」 「おう。こうさ、カーラの髪の長さでも使いやすくて、軽くて、つけるのも外すのも楽なのがいいんだわ。華やか過ぎないけど地味でもないようなやつ。女の子だし、そろそろ髪飾りくらいつけてもいい年頃だと思うんだよな」 「そうですねぇ。来年からは学校で化粧の授業もありますし。そろそろ世間一般的に言う、女の子らしくならなきゃいけない年頃ですからね」 「別にカーラはカーラなんだから今のままでもいい気がするが。やっぱなー、ある程度は世間の常識に寄っとかないとよ、誰に何言われるか分からんしなぁ。言われんでいいこと言われて傷つくのは本人だしよぉ」 「そこが難しいところなんですよね、本当に」 「カーラがしたい格好するのが1番なんだがな」 「そうなんですけどねぇ……中々難しいところです」 「なー」 「あ」 「ん?」 「そういえば髪飾りとか装飾品を作ってる人、僕知ってます。小学校の同級生の子なんですけど、たまに露天で売ったりもしてるんですよ。店自体は花街にあるんですけど」 「へぇ」 「子供も使えるような小さめのものも確か作ってた筈です」 「花街か。カサンドラでは行ったことがないな。流石にお子ちゃま達に案内させるわけにもいかんしな」 「そうですね」 「よし。とりあえず行ってみるか。案内頼むわ」 「はい」 昼食を終えたら花街に行くことが決まった。 のんびりパーシーとデザートまで楽しみ、店を出た。 パーシーと再び手を繋いで、花街に向けて歩きだす。 ケリーが何気なく空を見上げると、晴れていた空に暗い色をした雲が広がりつつあった。

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