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第14話雨宿り
パーシーはケリーと手を繋いで花街を歩いていた。出かける時にダメ元でケリーに手を繋がないかと言ってみてよかった。ケリーは手もかなりゴツい。それでも温かいケリーの手を握っていると落ち着くし、反面ドキドキと胸が高鳴る。パーシーは上機嫌で昼間だというのに賑わっている花街をケリーと話しながら歩き、花街の片隅にある小さな装飾品専門店に入った。そこはパーシーの同級生が営んでいる店で、同級生が作ったものばかりが売られているらしい。実は男同士のセックスの仕方を話していたのは、この同級生だったりする。家が花街にあり、なにかと耳にしていたらしい。
店の中は少し薄暗いが、キラキラと光る装飾品で溢れていた。パーシーの元妻フリアに贈る装飾品をここで買ったこともある。値段はピンキリで、安月給のパーシーでも買えるものもあるのだ。
ケリーと一緒にぐるっと1度店の中を見て回り、髪飾りが置いてあるコーナーの前で立ち止まった。ケリーは真剣な顔で、陳列している髪飾りを見ている。
「髪飾りって結構種類があるんだな」
「そうですねぇ。どうやって着けるのかも分からないものが多いですね」
「それな。つーか、俺達が着けてやらないとカーラは自分じゃ着けられんだろ」
「寝癖も頓着しない子ですからねぇ。あまり人のこと言えませんけど」
「お前さん達、髪の癖が強いわりに猫っ毛だもんな。ふわふわ広がってるよな」
そう言ってケリーが繋いでいる手とは反対の手を伸ばして、パーシーの短く切っている髪に触れた。んー……と小さく唸りながら、頭を撫でられる。頭を撫でられるなんて、いつぶりだろうか。多分子供の頃以来だ。フリアに頭を撫でられた覚えはないし。なんだか照れくさい。
「髪の毛はまんまカーラと一緒だな。顔立ちはそんなに似てないけど」
「あの子は別れた妻の母親に似てるんです」
「ふーん」
頭を撫でられたままでいると、後ろからポンと肩を叩かれた。振り向くと、職人でもある同級生マートルが立っていた。
「よぉ、パーシー。久しぶり」
「あ、久しぶり。マートル」
「彼氏のプレゼントか?髪の毛ねぇけど」
「彼氏じゃねぇよ。下宿人だ。ケリー・オズボーン」
「どうも。マートル・ニカインド。ここの職人兼店主」
「娘の誕生日プレゼントを探しに来たんだ」
「あー。パーシーんとこは娘だったな。俺んとこの1コ上だろ?確か」
「マートルは息子だっけ?」
「そうそう。今年で9歳」
「じゃあ、1つ上だ」
「10歳の女の子ねぇ……どんなのが好きだい?」
「装飾品にまだ興味がなくてな。できたら普段使いできる、地味すぎず、派手すぎないものが欲しい。できたら子供でも大人になっても使えるような丈夫なものがいいんだが」
「装飾品って言っても種類が多い。アンタ方が欲しいのは髪飾りか?」
「あぁ。髪がな、肩のあたりまでしか長さがないんだ。その長さでも使えるものってあるか?」
「ん?女の子だろ?そんなに髪が短いのか?」
「邪魔だからって切っちゃったんだよ」
「おやま。ちょっと変わった子だね。女の子は皆髪を伸ばして飾りつけるのに躍起になってるだろ」
「んー……男所帯で育ってるから」
「ふーん」
「髪質と色はパーシーにそっくりだ」
「あぁ。だから触ってたのね。てっきりイチャイチャしてるのかと思った」
「ちげーよ」
「だって手を繋いでるし」
「これは迷子防止だ。俺のな。すげぇ方向音痴なんだよ」
「へー。そいつはまた」
「とりあえず髪飾りを見てたんだが、着け方も分からんものばかりでな。こういうものに縁がなかったし」
「まぁ、その頭じゃな。ふむ。髪がそんなに長くないならバレッタか飾りつきのピンはどうだ?」
「バレッタってなんだい?」
「えっとよー、ちょいと失礼。あ、これだ。こう……髪を挟んでよ、パチンと留めるだけ。意外と髪をまとめて留められるし、俺が作ったのはちょいと工夫してるからよ。取れにくいんだ」
「へぇ。着けるのも外すのも楽そうだな」
「楽だよ。髪型によってはいっぺん髪紐で髪を縛ってからつけた方がいいけどな。まぁ、そこは着けてみて調節するのが1番だな。飾りつきのピンは、ピン自体の大きさも色々だし、飾りも邪魔にならないものから、こう……ジャラっと垂れ下がる感じのもんまで色々ある。ただ飾りつきのピンはどうしても子供っぽいか、やたら華やかなのが多いな。需要の関係で。バレッタの方が年齢問わずのデザインが多い。うちの店は値段がピンキリだが、この2種類は比較的買いやすい値段だな。露天での売れ筋商品だ。あとはよく売れるのはピアスかネックレスだな。それと指輪。女の子が自分で買うんだよ。確かなー、今はちょい派手めの飾りつきのピンが学校で流行ってるんだと。ちょっと前に聞いたばっかだから情報は新しいぜ?飾りつきのピンは結構流行り廃りが激しい感じだな」
「なるほどな。流行り廃りが激しいのはちょっとな……」
「バレッタが無難ですかね」
「だなぁ」
「これなんかはどうだい?」
そう言ってマートルが白と緑のバレッタを見せてきた。白い小さな可愛らしい花と緑の葉っぱがモチーフになっている。可愛らしいが子供っぽくなく、控えめな華やかさで、かといって地味でもない。上品な雰囲気のデザインだ。
「これなら普段使いもいいし、ちょっと着飾った時でも多分使えるぜ。流石に自分の結婚式じゃ無理だが、友達や知り合いの結婚式くらいなら十分使える」
「おぉ!いいな、これ!」
ケリーが目を輝かせた。パーシーもこれはすごくいいと思う。派手じゃないし、地味でもない。髪が長くても短くても使いやすそうである。ケリーは即決で白と緑のバレッタの購入を決めた。気に入ったらしい。マートルにキレイに包装してもらってから会計をして店を出た。子供の誕生日プレゼントにしては少しお値段お高めだが、ケリーは気にせず買っていた。どうせなら長く使ってもらいたいから多少高くても丈夫でいいものがいい、と。ケリーの言うことはパーシーにも分かる。パーシーが買った万年筆もそこそこの値段だった。だが、その分大切に使えば長く使うことができる。長い目で見れば、安い買い物だ。
パーシーは、いいものが買えたと上機嫌なケリーと手を繋いで、マートルの店から出た。外に出ると、薄暗く、一雨きそうな空模様になっていた。
「お、なんか降りそうだな」
「そうですね。急ぎますか」
「おう」
2人で足早に歩き始めたが、花街を抜ける前に、バケツをひっくり返したような激しい雨に降られた。傘は持っていない。慌てて近くの軒先に避難した。
「これは多分通り雨ですね」
「めちゃくちゃ激しいな。このあたり、傘は売ってなさそうだな」
「そうですね。ここら辺は確か連れ込み宿が密集してる所なので」
「あ、本当だ。つーか、ここもだな。よし。入るか」
「はいっ!?」
「ん?いやだって、これは暫くやまんだろ。ずっとここに立ちっぱなしも店に悪いし、俺達もツラいし。連れ込み宿ならご休憩コースがあんだろ。雨がやんだら出たらいい」
「え?え?え?で、でも、連れ込み宿ですよ?」
「やー。連れ込み宿でよかったぜ。流石に娼館で雨宿りはちょっとなー」
「え?え?」
パーシーはケリーに引きずられるようにして連れ込み宿へと入った。マジか。
連れ込み宿は部屋が空いており、普通に部屋に通された。部屋の中は大きなベッドがデンッと置かれており、ベッド横の小さなテーブルにはローションのボトルまで置いてある。おまけに右側からは女の喘ぎ声が、左からは男の喘ぎ声が聞こえてくる。気まずいことこの上ない。
パーシーが気まずくケリーを見ると、ぎょっとした。
「な!なんで脱いでるんですかぁ!」
「ん?だって結構濡れたし。ハンガーあるからな。かけときゃ雨がやむ頃には少しは乾くだろ。パーシーも脱げよ」
「え?え?」
ケリーは普通の顔で下着1枚になると、ハンガーに濡れた服をかけて、さっさとベッドの中に潜り込んだ。え?これ誘われてる?いや間違いなく違う。ただ単に濡れた服を着たままなのが不快だったのと、下着1枚では少し寒いし雨がやむまで暇だからベッドもあるし寝ようっていうだけの筈だ。多分そうである。その証拠にケリーが大きな欠伸をした。
「パーシー。お前さんも早く服脱いだ方がいいぞ。春とはいえ雨にうたれりゃ身体も冷える。風邪引くぞ」
「あ、はい」
パーシーはのろのろとシャツのボタンを外し始めた。ベッドは1つしかない。細いが背が高いパーシーと背が高くて筋骨粒々なケリーが寝ても余裕なくらいデカい。なんならそこで激しい運動をしても問題ないくらいデカい。シャツを脱いでハンガーにかけ、その下に着ていたタンクトップも脱いでしまう。
ケリーとはカーラも一緒に風呂に入ったこともあるし、カーラも一緒に寝たこともある。でも今はカーラがいないのだ。2人きりなのだ。更に場所がセックスをする目的の連れ込み宿なのだ。両側から他人の喘ぎ声まで聞こえてくるのだ。おまけに下着1枚で一緒のベッドに入るのだ。絶対勃起してしまう。勃起してしまう自信しかない。ケリーにその気はない。多分ない。チラッとズボンを脱ぎながらベッドの中のケリーを見ると、完全に寝る気満々である。
早くも血液が集まりそうな下半身をなんとか抑えて、靴下まで脱いで、パーシーもベッドに潜り込んだ。ケリーに背中を向けて寝転がると、背中にピタリとケリーの温かい手が触れた。
「うお。冷えてんぞ、パーシー。もうちょいこっちこい」
「あ、は、はい」
パーシーは引き寄せられるままに、ケリーに近づいた。殆んど密着しているような距離である。裸の肌同士が触れあってしまいそうだ。心臓が口から出そうな程バクバク激しく動いているし、なんならもうパーシーのペニスは勃起しちゃっている。パーシーはケリーに気づかれないように必死で腰を引いていた。
「おやすみ」
「お、おやすみなさい」
ケリーは普通に目を閉じた。パーシーも目を閉じて、すぐそばに感じる体温から気を反らそうとしていると、そのうちケリーの穏やかな寝息が聞こえてきた。そろそろと目を開けると、ケリーは普通に寝ている。少しほっとすると同時に、なんだか落胆してしまう。こんなに普通に寝られるなんて、ケリーがパーシーをそういう目で見ていない証拠である。いっそ勃起している股関をケリーに押しつけてやりたい。パーシーはケリーが好きだし、性的対象として見てるんだぞ、と知らしめたい。そんなことをする勇気はパーシーにはないのだが。穏やかに眠るケリーを見つめながら、雨がやむまでパーシーはずっと悶々としながら横になっていた。
ーーーーーー
パーシーは自室のベッドに横になり、溜め息を吐いた。
あれから2時間程経って雨の音が聞こえなくなると、ぐっすり寝ているケリーを起こし、服を着てから連れ込み宿を出て、足早に家へと帰った。カーラが帰る時間が近づいていたからだ。パーシー達が家に入ったすぐ後にカーラは帰って来た。
いつも通りのことをして、パーシーは自室に戻ったのだが、昼間のことばかり考えてしまって眠れない。明日は仕事なのだから寝なければならないのだが、どうしても眠れない。
ケリーの逞しい裸体とすぐ近くに感じた体温ばかり思い出してしまう。一緒に風呂に入ったこともあるし、一緒に寝たこともある。多分、連れ込み宿に2人きりというシチュエーションが悪かったのだ。ケリーが起きるまでに、なんとか勃起してしまったペニスは落ち着いてくれた。しかし近くで見たケリーの肌や匂いも思い出してしまい、現在進行形でパーシーのペニスは勃起している。なんとか鎮めたいところだが、頭の中はケリーだらけで落ち着く様子がまるでない。
チラッと目覚まし時計を見ると、ベッドに入ってからもう3時間近く経っている。パーシーは観念することにして、ごそごそと自分の勃起しているペニスに手を伸ばした。誰かを思いながら自慰をするなんていつぶりだろうか。
パーシーはある程度満足するまで、ひたすら自分のペニスを弄った。
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