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第17話遠足

待ちに待った遠足の日がやってきた。 ケリーはいつもより1時間早く起きて、いそいそとエプロンを身につけて厨房へと向かった。カーラもパーシーも同じ時間に起きた。パーシーはいつも通り半目である。材料は全て買ってある。パーシーが甘くてふわふわ分厚いオムレツを作り、カーラはフルーツサンドに入れる苺とオレンジを切る。ケリーは地味に力作業である生クリームを泡立てる。一応生クリームの泡立て方は1度練習してある。料理教室の時にキャシーにやり方とコツは聞いてある。それに従って練習した時には、そこそこ上手くできた。勿論本職が作るほど旨いものにはならないが、それでも十分食えるものができた。ガッシャガッシャと音をさせながら、下に氷を入れた大きなボールを置いて生クリームを冷やしつつ、ボールの中の生クリームを泡立て器でかき混ぜていく。途中で砂糖を加えたりしながら、ひたすらかき混ぜる。 「おっちゃん。味見したい」 「もうちょい待てよ。まだ全然だ」 「生クリームってさー、思ってたより作るのに時間かかるんだよなぁ」 「それな。ケーキ屋とかどうしてんのかね」 「なー」 果物を切り終わったカーラはサンドイッチ用のパンにバターを塗り始めた。パーシーはオムレツを焼き上げ、昨夜のうちに下味をつけておいた骨付き肉を揚げている。完全に覚醒していないのによく揚げ物ができるな、とケリーは少し感心した。 なんとか予定の時間までに弁当が完成した。どれも旨そうにできている。フルーツサンドイッチは、氷を袋に入れて、それと一緒に保冷バッグに入れた。 パーシーが同時進行で作っていた朝食を食べて片付けると、3人で家を出る。ケリーはカーラと手を繋いで、反対の手には弁当を入れている鞄を持っていた。3人分の水筒などはパーシーが持っている。去年のカーラの運動会の時に1度だけ行ったことがある小学校を目指して、ケリーはご機嫌にカーラと繋いだ手を振りながら歩いた。 ーーーーーー 小学校の校庭に集合し、学年主任らしい先生から注意事項などの説明がされると、遠足の始まりである。ぞろぞろと集団で街中を歩いて抜け、街の外へと向かう。ケリー達はガーナ・ケビン親子と一緒に歩いていた。 「カーラんとこの昼飯なに?」 「オムレツサンドとフルーツサンド。あと唐揚げとか」 「オムレツサンドって、もしかしてオムレツ挟んでんの?」 「そう。1度試しに作ってみたけど旨いよ。おっちゃんに教えてもらったんだ」 「へぇー。1口くれよ。ばあちゃんが作ってくれたクッキーやるし」 「いいよ」 「おっちゃんって料理できんの?料理教室通ってるんだろ?」 「そこそこ慣れてきたな。講師の先生がなんかやたら濃いけど分かりやすくてな。中々いい先生なんだよ」 「ふーん。オムレツサンドも習ったの?オムレツ挟むなんて聞いたことないけど」 「いや。バーバラにな、元部下の伴侶がやってる喫茶店があるんだ。1度行った時に食ったんだよ。これが旨くてなぁ。すげぇ印象に残ってたんだわ」 「へぇー。バーバラってあれだよな。中央の街の手前のデカい街」 「そうそう。男夫婦だけど、お前さん達より1コ歳上の息子もいるんだと」 「へぇー。すげー。中央の街に近いと男夫婦でも子供いるんだ」 「ん?カサンドラにはいないのか?」 「あんまりいませんよ、ケリーさん。子供をつくるには中央の街まで行かなきゃいけないでしょう?遠いし、子供をつくる以外にもお金がかかるし、カサンドラまで子供が旅ができるようになるまで中央の街で育てなきゃいけませんから。最初から男が好きで子供が欲しいと思っている人は中学校を卒業したら皆中央の街に行くんですよ。その方が早いし、カサンドラにいるよりも確実ですから」 「なるほど。言われてみればそうだな」 「僕の知り合いの男夫婦は皆子供はいませんね。けど、養子をもらう夫婦もいるそうですよ。カサンドラにも一応孤児院があって、親が亡くなったり、育てられない事情がある子供達がいるんです。そこの子供を引き取って家族になるんですよ」 「へぇー。いいことだな。やっぱり家族がいた方が楽しいしな」 「そうですね」 話をしながら歩いていると、カサンドラの街を抜けた。長閑な畑に囲まれた道を歩き、たまにアニーに乗って行く原っぱを目指す。ガーナ達と世間話をしながら歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。ケリーが振り返ると、そこにはマートルがいた。 「や!どうも。見覚えあるハゲ頭が見えたからさ」 「ハゲじゃねぇ。これは剃ってるんだ」 「ふーん。よぉ、パーシー。ガーナ。久しぶり」 「あぁ、マートルじゃん」 「久しぶり。こないだはどうも」 「こっちのお嬢ちゃんがパーシーの娘さんかい?バレッタ似合ってるな」 「どうも。父さんこの人誰?」 「僕の同級生のマートルだよ。そのバレッタを作った人」 「へぇ」 「こっちは息子のマイキーだ。お嬢ちゃんの1コ下」 「マイキーだよ」 「カーラ」 「ケビンだ」 「ガーナんとこも男の子なんだな」 「そ。俺に似て中々男前だろ?」 「ちっちゃいところもそっくりだな」 「お前相変わらず一言多いな」 「はははっ」 「ははは、じゃねぇーよ」 「カーラはなんでハゲのおじちゃんと手を繋いでるの?」 「ハゲじゃねぇし、おじちゃんって歳でもねぇよ」 「おっちゃんは方向音痴なんだよ。うっかりはぐれたら、おっちゃん1人じゃ家に帰れないし。それに目印になるものがない街の外じゃ、おっちゃんがもし迷子になっても探せないし」 「ふーん」 「ケリー?だったよな。パーシーと店に来るまで見たことがないけど、カサンドラの外から来たのか?」 「あぁ。中央の街の生まれだ。ずっと軍人してた。今は辞めてのんびりしてるとこだ」 「おじちゃん無職なの?」 「いやまぁ無職だけど……」 「おっちゃんは200年近く領軍で働いてたんだよ」 「俺らの父ちゃん達より、ずーーーっと歳上なんだぜ」 「200年!?すごい!しかも軍人さんだったの?おじちゃん剣使えるの?」 「まぁな」 「毎朝、剣を振り回してるよ」 「すごいっ!カッコいい!俺も剣やりたいんだ!」 「ん?そうなのか?」 「でも父さんがダメって言う」 「いやだって。マイキーめちゃくちゃ運動音痴じゃん。走ったら確実に転ぶレベルの運動音痴じゃん。剣なんて危なくてやらせられないよ」 「大丈夫だしっ!」 「んー……まぁ、なんにでも挑戦するのはいいことなんじゃないか?子供なんて多少怪我するもんだしな」 「まぁ、そうなんだけどー。家の近くに剣を教えてくれる所なんてないしなぁ」 「おっちゃんに教えてもらえば?基本暇だし」 「別に構わんぞ」 「本当にっ!?父さん!!」 「えぇー?本当にするのぉ?」 「子供用の練習の為の剣さえ買えばいいぞ。別に金はとらん。どうせ暇だしな」 「んー……」 「父さん!やりたい!やりたい!」 「しょうがないなぁ……頼んでいいかい?ケリー」 「おー。日曜日の午前中以外ならいつでもいいぞ。日曜日の午前中はカーラと一緒に料理教室に通ってんだよ」 「花嫁修業?」 「ちげぇよ。なんでだよ」 「はははっ。じゃあ、土曜日の午後からはどうだい?毎週土曜日は街の広場で露天やってるしさ。俺の家からマイキー1人で通わせるのもちょっとな」 「いいぞー。いいだろ?パーシー」 「勿論。よかったね、マイキー君」 「うん!」 「じゃあ、来週からよろしく頼むよ」 「子供用の剣は武器屋にあるぞ。多分マイキーも連れていったら、ちょうどいい長さと重さのものを店員が選んでくれるんじゃねぇかな。そこまで親切な店員じゃなかった場合は俺も一緒に行こう。身体に合ったものを使わないと、最悪負荷が大きすぎて身体を痛めちまう」 「なるほどね。助かるよ。運動音痴だからさ。すぐ怪我するから運動させるのも心配なんだけど、身体を全然動かさないのも悪いだろ?そりゃ体育の授業はあるけど、正直ちょっと何かさせたかったんだわ」 「まずは剣の持ち方と基礎体力をつくることからな。つーわけで、走ったりもするぞ。できるか?マイキー」 「やるっ!」 「じゃあ僕もやるー。いつもおっちゃんの日課眺めるだけだし。今のところ別にやりたいこともないし」 「えぇー!じゃあ俺もやりたい!いい?父ちゃん!」 「はぁー?ケビン。お前、本格的に家具作りの練習始めたばっかだろ?剣まで習って大丈夫か?」 「大丈夫!おっちゃんみたいにムッキムキになるしっ!」 「マジか」 「いいでしょ?父さん」 「んー……まぁ、いいか」 「いいのか?パーシー。カーラは一応女の子だぞ?」 「いいんじゃない?ガーナ。別に女の子が剣を習っちゃダメってわけじゃないし。運動するのはいいことだよ。子供のうちに基礎体力をつけとかないと。女の子は将来子供を産むんだし。お願いしていいですか?ケリーさん」 「まぁ、それもそうか」 「おう。そういうことならいいぞ」 「おっちゃん。明日僕の剣を見に行こう」 「おー。いいぞー」 「俺も行くー。いいだろ?父ちゃん」 「しょうがねぇなぁ。悪いが頼むよ。ケリーさん」 「おー。まぁ、できるだけ怪我はさせねぇよ。ま、剣だことかはどうしようもねぇけどな。じゃあ来週から、うちの中庭で剣の教室な。いいだろ?パーシー」 「えぇ。勿論」 「「「やったー!」」」 子供達が嬉しそうに歓声をあげた。ケリーはひょんなことから子供達に剣を教えることになった。領軍の新人をしごくことしかしたことがないが、まぁ多分なんとかなるだろう。 話していると原っぱに到着した。ケリー達はマートル親子も一緒に賑やかに弁当を食べ、腹がいっぱいになると子供達は遊び始めた。ケビンが持ってきた縄跳びで一緒に縄跳びをしている。見ている限り確かにマイキーはどんくさい。しかし、人より時間はかかるかもしれないが、コツコツ頑張れば多少なりとも剣も上達するだろう。まだ9歳なのだ。可能性はいくらでもある。 ケリーはパーシーと並んで座って、元気な子供達を眺めながら、穏やかな気分で小さく欠伸をした。

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