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第27話生まれて初めて

誕生日当日の朝。ケリーはパーシーと共にいつもより1時間早く起きた。お互い全裸のままくっついて眠った。直腸にはセックスの後に浄化魔術をかけたので精液などは残っていないが、汗をかいたので肌がべたついているし、身体についたままだった精液がカピカピになっている。中々起きないパーシーを最終的に力ずくで叩き起こして、カーラを起こさないように、こっそりと2人で風呂に入った。風呂に入れば流石に覚醒するのか、パーシーがいつもよりも早くシャッキリした。 風呂から上がると、パーシーが厨房でケリーに珈琲を淹れてくれた。コツは聞いているけど初めて淹れるというパーシーの珈琲は結構旨くて、ケリーは珈琲が入ったマグカップ片手に、パーシーを引き寄せてキスをした。のんびりパーシーが淹れてくれた珈琲を味わい、飲み終わったら朝食を作り始めたパーシーを手伝う。ちょうど朝食が出来上がる頃にいつも起きる時間になり、バタバタとカーラが階段を駆け下りて、寝巻きのまま1階のテーブルの所に走ってきた。テーブルに皿を並べていたケリーにカーラが勢いよく抱きつく。 「誕生日おめでとう!親父!」 「おう!ありがとな」 「あれ?父さんが覚醒してる?」 「おはよう。カーラ」 「おはよう。あっ!もしかして先に親父におめでとう言った!?」 「言ったよ」 「うっそだろっ!?僕が1番に言うつもりだったのに!」 「ふっ。勝った」 「むぅ。負けた」 「なんの勝負してんだよ。お前さん達」 本気で悔しそうなカーラと大人げなくドヤ顔しているパーシーにちょっと呆れて、ケリーはカーラのちょっと寝癖がついている頭を撫で回した。ぎゅうぎゅう抱きついていたカーラがケリーから身体を離して、キレイに包装されている四角いものを差し出した。 「はい。2年分」 「ははっ。ありがとな。開けてもいいか?」 「うん」 丁寧に包装されているものを慎重に開けると、中から2つの写真立てが出てきた。木でできているフレームには1つは植物をモチーフにした繊細な模様が、もう1つには様々な動物をモチーフにした可愛らしい模様が彫られている。 「おぉ!すごいな!もしかしてカーラが作ったのか?」 「うん。ガーナおじさんに習ったんだ。まぁ、難しいところは少しだけケビンに手伝ってもらったけど、殆んど僕1人で作った!」 「ははっ!すごいな!カーラ!よくできている。ありがとう!大切にする!」 「うん」 「あ、御披露目パーティーの写真があるな。早速入れて飾るわ。1つはカウンターに飾ろう。いつでも誰でも見れるように。もう1つは俺の部屋に写真入れて飾るわ」 「うん!」 「ちょっと写真取ってくる」 ケリーは静かにテーブルに写真立てを置くと、バタバタ走って自室に行き、箱に入れて大事にしまっておいた御披露目パーティーで撮ってもらった3人の写真を2枚手に取った。写真は何枚も撮ってもらった。その中でもお気に入りの2枚を素早く抜き取り、またバタバタと走って1階に下りる。写真立てに写真を丁寧に入れて、可愛らしい動物モチーフの彫り物がしてある方の写真立てをカウンターに置いた。かなりいい感じである。パーシーもケリーのすぐ側で写真立てを見て、嬉しそうな笑顔でケリーの腰に腕を巻きつけてくっついているカーラの頭を撫で回した。 「ははっ。いいな!ピッタリだ!」 「すごいよ、カーラ。本当に上手にできてる」 「へへーっ」 照れたように笑うカーラを抱き上げて、ケリーはカーラの柔らかい頬にキスをした。嬉しくて堪らない。カーラを抱き上げたまま、ケリーは笑いながらその場でくるくる回った。カーラも笑い声をあげながら、ケリーにぎゅうぎゅう抱きついた。 ちょっと落ち着いてから、ケリーはカーラを下ろした。回りすぎて少しクラクラする。どんだけ嬉しいのかと自分に少し呆れてしまうが、半端なく嬉しいのだ。仕方あるまい。 漸くカーラを下ろしたケリーに、パーシーもキレイに包装されているものを2つ差し出した。 「はい、僕から。2年分」 「ありがとう!開けてもいいか?」 「勿論!」 パーシーから渡されたプレゼントは大小2つである。とりあえず小さい方を開けてみた。中には撮影機が入っていた。掌サイズでポケットにも入る大きさのやつである。確かどこかの店に陳列してあった最新式のものだ。驚きながら、もう1つの大きい方を開けてみる。包装紙を優しく丁寧に取ると、美しい装丁の1冊の本である。本のど真ん中を広げてみると、そこは真っ白だった。よく見ると写真を入れるところがある。もう1つのプレゼントはアルバムだった。1頁目を開いてみると、御披露目パーティーの3人で写っている写真が1枚だけ入っており、写真のすぐ隣の空いているスペースに『家族になった日』と日付と共に書かれている。 ケリーは無言でテーブルに2つのプレゼントを置いた。ガバッとパーシーに抱きついて、ぎゅうぎゅうパーシーを抱き締めながら、カーラが見ている前だというのに、何度もパーシーの顔中にキスをした。もう嬉しすぎて言葉にならない。パーシーは笑いながら、されるがままである。嬉しすぎてテンションが上がりまくったケリーがちょっと落ち着いてパーシーから身体を離すと、パーシーからも軽いキスをされた。 「ケリー」 「うん」 「これから、このアルバムを写真でいっぱいにしようよ。家族の写真で」 「うん」 嬉しすぎて目頭が熱くなってきた。嬉しくても幸せでも涙って出るんだな、と不思議に思いながら、ケリーは1つ涙を溢した。 ーーーーーー 朝食を終えて片付け、各自着替えると、ケリーはいつものようにカーラの髪を編み込んで結い上げた。今日はカーラは御披露目パーティーの時のワンピースを着て、上から黒いカーディガンを羽織り、黒のショートブーツを履いている。黒いチョーカーを着けてやると、素敵な可愛いお嬢さんの完成である。パーシーもいつもより上等なスーツを着ており、ケリーも2人に合わせたそれなりに上質なスーツを着ている。 3人で手を繋いで家を出た。これからケリーが大好きな『土の神子マーサ資料館』に行く。ケリーはご機嫌に2人と繋いでいる手を振った。スーツの内ポケットにはパーシーから贈られた撮影機が入っている。できたら資料館で3人の写真を撮りたい。ケリーはるんるん気分で資料館まで歩いた。 午前中いっぱいのんびりパーシーの解説つきで展示を見て回り、昼食を食べに外に出る前に資料館の受付をしている職員に頼んで、資料館の前で3人の写真を撮ってもらった。 昼食はパーシーの案内で、資料館から比較的近くにあるこ洒落た店に入った。創作料理メインの店で、パーシーがコース料理を頼んでくれていた。前菜から始まり、のんびり話しながら旨い料理の数々に舌鼓を打つ。デザートまできっちり楽しんでから、満腹になって店から出た。再び資料館に戻り、今度はパーシーの研究室に案内してもらった。研究室に着くとすぐに、パーシーから白い布の手袋を差し出された。ケリーとカーラが素直に手に着けると、パーシーがガラス戸つきの本棚から1冊の本を取り出した。 「パーシー。それってもしかして」 「僕の研究に使っているマーサの日記の写本です」 「マジかぁぁぁ!」 「どうぞ」 「えっ!?さ、触っていいのか?大丈夫なのか?」 「手袋をしてもらってるので大丈夫ですよ。ただ写本の写本の写本とはいえ、1000年近く前のものなので、慎重に扱ってくださいね」 「カーラ」 「なに?」 「代わりに受け取ってくれ。そして開いて見せてくれ。俺今興奮し過ぎててヤバい。マジヤバい」 「お、おう……まぁいいけど」 カーラがパーシーから写本を受け取り、布が引いてあるテーブルの上にそっと置いた。丁寧に表紙を捲り、1頁目がケリーの視界に入る。ざっと読むと、1頁目にはマーサの日記を書く理由が書かれている。日記なんて書いたことはないが、そろそろ死ぬのがなんとなく分かったので、後世の歴史家達のために、自分がしてきたことや見たもの、感じたものを書き綴っていく、と。ざっくり要約するとそんなことが書かれていた。 「……パーシー」 「なに?ケリー」 「俺ここに住みたい。住んでマーサの日記をひたすら読みたい」 「それは流石に無理だねぇ」 パーシーが苦笑した。カーラは呆れた顔をしている。しかしケリーはかなりガチでそう思っている。本気でマーサの日記を全て読んでみたい。 「ケリー」 「ん?」 「今ね、仕事の合間に写本を書き写しているんだ。勿論、館長の許可を取った上でね」 「へぇ!すげぇな!」 「思いついたのも取りかかったのも少し遅くて今年は間に合わなかったのだけど、来年から誕生日の度に1冊ずつケリーにプレゼントするよ」 「いっ!いいのかっ!?」 「それも含めて許可を取ったからね。マーサの日記は全部で36冊あるんだ。定年退職の60歳までには全て書き写しておくから、毎年1冊ずつ貴方に贈るよ。一緒に読もう」 「パーシー……」 「全部受け取って、その後に共同研究するところまで勿論付き合ってくれるだろう?」 「……ははっ。当たり前だっ!」 ここがパーシーの研究室でなかったら、パーシーにハグしてキスして、いっそのこと押し倒しているところだ。嬉しくて堪らない。マーサの日記の写本を貰えることもだが、それ以上に、30年以上経ってもケリーと一緒に過ごす気満々なパーシーの気持ちが嬉しくて堪らない。丁寧にパーシーが史料である写本を片付けてから、パーシーの研究室を出た。嬉しいし、興奮してるし、嬉しすぎるしで、なんだかもうケリーの頭の中は訳が分からないことになっている。 パーシーとカーラと手を繋いで、普段は見ることができない史料をこっそり見せてもらった。流石に保管用金庫のものは無理だったが、特別展の時にしか出さないものなどが沢山あった。ケリーは時間を忘れて、夢中でそれらを見ながら、パーシーの解説に耳を傾けた。 資料館の閉館時間になるまで、がっつりマーサが遺したものを眺めたり、話を聞いたりして過ごした。楽しいなんてもんじゃない。興奮しすぎて鼻から情熱(鼻血)が迸るかと思った。 ケリーはご機嫌にパーシーとカーラと手を繋いで歩いた。パーシーに案内された夕食を食べる店は、街中の脇道を通った先にある隠れ家的な所だった。パッと見民家にしか見えない。 店のドアを開けたパーシーに続いて、ケリーとカーラも店内に入る。店内は温かい落ち着いて雰囲気で、飲食店としてはとても狭い。テーブルが1つしかなかった。そこに3脚の椅子が置いてある。 奥から老爺が出て来て、ケリー達に挨拶をすると、また奥へと引っ込んで行った。 パーシーに促されて椅子に座る。 「ここは僕の父の親友の方がやっている店なんです。少し変わってて、1日に1組のお客さんしか入れないんですよ。普段は宿屋をやってましたから外食なんてできなかったんですけど、誕生日や何か特別な日にはここに家族で来ていたんです」 「へぇー」 「父が亡くなってからは来てませんでしたけど、僕にとっては此処もとても大切な場所で。貴方を連れてきたかったんです」 「……ありがとな。パーシー」 「親父。ここのタンシチューは最高だぜ」 「タンシチュー?」 「牛の舌をシチューにしてるんですよ」 「舌?そんなところも食べるのか?」 「すっごく美味しいですよ」 「ははっ。楽しみだ」 老爺が料理を運んできてくれた。デミグラスソースで煮込まれているタンシチューと、彩り鮮やかなサラダ、焼きたてっぽいパン、いい匂いがしている小さなカップに入ったオニオンスープをテーブルに並べてくれた。確かにどれもものすごく旨い。3人で会話を楽しみながら、のんびり味わって食べる。デザートには小さめのキレイなチョコレートケーキがホールで出てきた。老爺がその場で切り分けてくれる。チョコレートケーキは甘さが控えめで、一緒に出された香りのいい珈琲ともよく合っている。ケリーは上機嫌で全て食べきった。 すっかり暗くなった道を3人で手を繋いで歩いて帰った。この日も3人で風呂に入り、1階にマットレスなどを運んで3人で寝た。カーラもはしゃいでいたので疲れたのだろう。ケリーにピッタリくっつくなり、カーラはぐっすりと眠ってしまった。 パーシーと手を繋いで指を絡める。ケリーがパーシーの方を向くと、パーシーがすかさず触れるだけの優しいキスをしてくれた。 「パーシー」 「うん」 「すげぇ幸せ」 「ふふっ。これから幸せはずっと続くよ。3人で」 「そうだな。いや、3人とは限らんな。もしかしたら、いつか孫ができるかも」 「ふふふっ。そうなったら家族が増えるね」 「あぁ」 「ケリー」 「ん?」 「僕もすごく幸せだ」 「うん」 ケリーはもう1度パーシーと触れるだけのキスをして、静かに目を閉じた。こんなに幸せな誕生日は生まれて初めてだ。ケリーは淡く微笑みながら、2つの温もりに誘われるがままに眠りに落ちた。

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