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第28話カーラの結婚

月日は穏やかに賑やかに過ぎていき、結婚して6年目の春。 カーラが中学校を無事卒業し、16歳の成人を迎えた。 カーラは小学校を卒業したあたりから、普段もスカートを穿くことが多くなった。選んでいるのはいつもケリーである。中学校2年目くらいからは日常的に化粧もするようになり、初めて会った時はまんま男の子の様だったカーラは今では可愛い大人の女になりつつある。 背が高く、すらっと手足が長い、細身だがスタイルのいいカーラは中学校に上がる頃から、何故か女にモテ始めた。学校では女に囲まれてキャーキャー言われ、カーラの髪型を真似する者も少なくない。バレンタインデーには大量の本命っぽいチョコレートを貰ってきた。何でだ。本当に何でだ。 今日はカーラの16歳の誕生日である。3人で街の服屋へと行き、ケリーは華やかな白いワンピースを、パーシーはワンピースに合う可愛らしい靴をプレゼントした。カーラは相変わらずケリーが昔贈ったバレッタをいつも使っている。 カーラを素敵に着飾って、誕生日や特別な日に行く隠れ家的な店へと3人で手を繋いで歩いていく。6年の間に初めて店を訪れた時にいた老爺は亡くなり、その息子が跡を継いだ。でもタンシチューの味は変わらない。 落ち着いた店内でカーラの誕生を祝って、和やかに話をしていると、カーラが爆弾を落とした。 「僕近いうちに結婚するから」 「ぶはっ!」 「おー。ついにかー」 「は?は?け、けっこん?結婚!?」 「ケビンの奴め。ついに俺達の愛娘をもってく気だな」 「はははっ」 「は?相手ケビン?え?ちょっ、い、いつの間にぃ!?」 「あれ?父さん気づいてなかったの?」 「1年半前くらいから付き合ってたじゃないか。カーラとケビン」 「えぇぇぇぇぇぇっ!!」 「うわ」 「ちょっ、叫ぶな。パーシー」 「言ってよぉ!!ケリーも知ってたのっ!?」 「おう。ていうか、普通に見てれば分かるだろ」 「えぇぇぇ……」 「鈍いぜ、父さん」 「俺でもすぐに気づいたのにな」 「明後日、正式にケビンが結婚の許しをもらいにくるから、よろしく」 「おー。分かった」 「は?は?明後日?」 「住むのは僕達の家の予定。部屋数多いから、将来子供ができても大丈夫だし」 「お。いいな」 「ケビンは実家の家具屋で働くからさ。僕もその手伝いをするよ」 「じゃあ昼飯は俺が作って持っていこうか?ガーナとじいさんの分まで。ばあさんがいる時以外だけどな」 「頼むよ、親父」 「ついでに一緒に食おうぜ」 「うん。勿論」 「結婚式はいつの予定なんだ?」 「早くて夏頃かな?ドレス作んなきゃいけないし」 「よし。ドレスは俺が買おう。娘の晴れ舞台だ。カーラを1番魅力的に見せる飛びっきりのを作ってもらおうぜ」 「ははっ。ありがと。親父」 「あのー……」 「なに?父さん」 「どうした?パーシー」 「僕を置いて話を進めないでよぉぉ!」 「「えー」」 「えー、じゃないよ!僕、まだいいって言ってないし!」 「ダメなの?」 「ダメなのか?ケビンだぞ?」 「うぐぅ……そりゃケビンならいいけどさ。どこぞのポッと出の馬の骨よりよっぽどいいけど」 「「よっしゃー」」 ケリーはカーラとハイタッチした。ケリーはカーラとケビンが恋人になった時から、ずっと若い2人の恋を応援している。パーシーからも結婚の許しが出た。あとは結婚するだけである。 「うぅ……こんなに早くお嫁にいっちゃうなんて……」 「泣くなよ、パーシー。結婚しても俺達の家に住むんだ。息子が1人増えるだけの話だろ」 「…………それもそうだね」 「あ、泣き止んだ」 「家ならケリーがいるし、子供ができても安心かな?」 「赤ん坊の世話なんかしたことないぞ」 「それは僕とケビンと一緒に子育て教室通えばよくない?」 「そうだな。そうしよう」 「卒業と成人と結婚が1度にくるなんて……」 「めでたくていいな」 「うん」 「父さん。親父」 「ん?」 「なに?カーラ」 「育ててくれてありがとう。これからもよろしく」 穏やかに微笑むカーラはもう大人の女だ。ケリーはじんわり目に涙が滲んだ。少年のようだったカーラはもういない。成長が嬉しいと同時にものすごく寂しい。涙を堪えているケリーの隣で、パーシーの涙腺が崩壊した。この日の誕生日ケーキは、ちょっぴり涙の味がした。 ーーーーーー 夏の終わりの今日。カーラはケビンと結婚する。結婚式を行う街の神殿の控室で、ケリーは涙を堪えてカーラを見つめた。とてもキレイである。この日の為にカサンドラの街1番のお針子に頼み、作ってもらった白いドレスはカーラにとてもよく似合っている。 「親父」 「おう」 「髪、やってよ」 「おう」 多分カーラの髪を結ってやるのはこれで最後だ。これからはこれはケビンの役目になる。ケリーは丁寧にカーラの髪を結い上げた。 「なぁ」 「んー?」 「本当にこれでいいのか?」 「うん。これがいい。これじゃなきゃヤダ」 「……そうか」 ケリーはカーラの髪に白と緑のバレッタをつけてやった。キレイに化粧をして、ドレスに身を包んだ今日のカーラは本当に美しい。ケビンにやるのが勿体無くなってきた。ケリーがボソッとそう言うと、カーラはケラケラ笑った。 控室に入ってきたパーシーは、カーラを見るなりボタボタ涙を溢した。早くも感極まったらしい。気持ちは分かるが、少しは堪えろ。つられてしまうだろうが。 ケリーはパーシーの涙をぐいぐいハンカチで拭い、控室の近くにいた神官に頼んで、最後の3人での写真を撮ってもらった。 これからはきっと家族が増えていく。ケビンがその最初の1人だ。 結婚式は問題なく始まった。パーシーは結婚式が始まるなり、また泣き出した。静かにスンスン鼻を啜りながら、溢れる涙を拭いつつ、じっとケビンと並ぶカーラの姿を見つめていた。ケリーも今日のカーラを目に焼きつけておこうと、じっと若い2人を見つめた。ケビンもそれなりに身長が伸びたが、まだカーラの方が頭半分くらい背が高い。男の成長期は遅いので、まだまだケビンは背が伸びる余地があるが、父親のガーナも背が低いので、どうだろうか。男女逆転な身長差を当の本人達はまるで気にしていない。神への誓いを終えると、カーラは少しかがみ、ケビンは少し背伸びをして、誓いのキスを交わした。初めて会った時は幼かった子供達が夫婦になった。なんとも感慨深い。寂しいが、それ以上に嬉しい。ケリーは笑顔で、幸せそうな若い2人に向かって精一杯拍手をして、2人の結婚を祝った。 ーーーーーー カーラとケビンが結婚して半年後に、カーラの妊娠が発覚した。妊娠3ヶ月目に入る頃で、ケリーもパーシーも大喜びした。ケビンは喜びすぎて泣き出し、そのまま走って実家に知らせに行った。たまたま来ていたケビンの母親アリアナも含めたガーナ一家がすぐに全員やって来て、そのまま妊娠おめでとうパーティーが始まってしまった。 翌年の初夏の頃。カーラは元気な男の子を無事出産した。カーラとケビンはその子をアイールと名付けた。ケリーはアイールの世話で毎日がてんてこ舞いになった。パーシーもケビンも昼間は仕事なので、基本的にカーラとケリーでアイールを世話している。ちょいちょいケビンの母親アリアナが来てくれるので、かなり助かっている。 カーラのおっぱいを飲んで満腹になり、暫く眠くて泣いていたアイールがやっと寝てくれた。ケリーは抱っこしていたアイールが起きないように、そっと赤ちゃん用のベッドに寝かせた。 「やっと寝たー」 「おーう。お疲れ、カーラ」 「子育てがこんなに大変とは……」 「まだハイハイもできないんだから、今はまだマシな方らしいぞ。ハイハイし出したら、何でも口にいれるし、どこにでも行こうとするしで目が離せんってアリアナが言ってた」 「マジかー」 「がんばろうぜ。家族皆でよ」 「うん。……親父」 「ん?」 「ありがと」 「なにがだ?」 「ふふっ。色々」 「ははっ。そうか」 ケリーは母親になったカーラの頭を優しく撫でた。

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