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柳は緑 花は紅 4

* 猛の作ってきてくれたローストビーフも残りわずかになって、蟹はあっという間になくなって、ワインも日本酒もほとんどなくなって。 お腹いっぱいで残ったワインをちびちび飲みながら、久しぶりに猛を一人占めしていることが嬉しくて、なんとなく付けっ放しのテレビを眺めている男らしい大好きな横顔を盗み見る。 きっと外は手足がかじかむくらい寒いだろうに、わざわざ蟹を買って会いに来てくれた。実家から送ってきたなんて嘘。 だって猛のお母さんから、蟹を用意しておくから帰ってきたら食べに来なさいって連絡あったから。 わざわざ送ってきたならお母さんから連絡あるはず。そんな連絡ないから、猛がわざわざ買って来たんだって、すぐわかった。 猛への想いが溢れそうで、一緒に帰るのが何だか気まづかったから、帰省をずらしたのに、猛はこうして会いに来てくれた。 暖房の効いている部屋で、ローテーブルに向かい合わせで座って、他愛もない話しをしながら美味しいご飯を食べる。 こんなことが久しぶりすぎて、何だか胸が締め付けられる。 昔はずっと一緒にご飯食べてたのに・・・いつの間にかこんな当たり前のこと、しなくなっちゃってた。何で一緒にいなくなっちゃったんだろう・・・。 猛の顔をチラチラ見てたら、不意にこっちに顔を向けた猛と目が合った。何気なく視線が合ってしまい、猛は左手で頬杖をついたまま、ボクは狼狽(うろたえ)て視線を外しては戻してを繰り返した。 猛は不意に真剣な表情(かお)をして、ボクを真っ直ぐ見つめながら、低い声で話し出した。 「雪・・・実は」 「あ・・・その・・・」 盗み見ていたことがバレて、恥ずかしくなったオレはワイングラスを握りながら、思いっきり顔を背(そむ)けながら口走った。 「そ・・そういえば!彼女ほったらかしでいいの?大晦日なのに」 「え・・?いや・・・彼女なんかいないぞ」 「え?!いないの?!」 予想外の回答に猛に向き直る。 猛は若干(じゃっかん)不機嫌な顔をして、少しだけ薄い口唇を尖らせて、細い眉根を寄せた。 不機嫌な時のその顔も昔から変わらなくて、何だか妙に胸がきゅぅっと締め付けられた。 「もう何年も前に別れてるし・・・そんなことより」 「ぅぁぁあああ・・・そうなんだ!ごめん気付かなかった!」 「いやそれはいいから」 「そっか別れたんだぁ!良かったぁぁ・・・あ・・・」 「え?」 ポロっと。 溢(こぼ)れてしまった本音。 絶対に言わないつもりの、言ってはいけない、言葉。 空気が凍りついたのがわかる。 ボクは手で口を押さえて、猛から目を外らせて、溢れる生唾を飲み込んだ。 どうしよう・・・あんなこと言っちゃった・・・どうしよう変に思われてる・・・下手したらボクの気持ち気づかれたかも・・・?! 猛の真っ直ぐな視線を感じながら、ボクはパニックになった頭で一生懸命言い訳を考えて吐き出す。 「あのその、違くて・・・その・・・猛に彼女がいなくて良かったってのはその・・・」 猛は頬杖をついたままじーーーっとボクを見つめる。 ボクの心を見透(みす)かすようなその瞳に、ボクは更に焦(あせ)って、しどろもどろになって、自分が何を言っているのかわからなくなってきていた。

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