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柳は緑 花は紅 5
身振り手振りをしながら下手な言葉を吐き出し続ける。からからに乾いた喉を潤そうと、残ったワインを一気に煽(あお)った。
「猛モテるからいつか結婚しちゃうだろうし、そうなったら嫌だなって・・・あ、猛が幸せになるが嫌じゃなくて・・・結婚相手がボクじゃないってのが嫌で・・・あ・・・その・・・」
「・・・」
猛はまだ、何も言わない。
ただただ、見つめてくる。
真剣な色を浮かべて、真っ直ぐ向けられる瞳が、心を抉(えぐ)っていく。ボクがひたすら隠したかった、心の奥底を、ほじくって暴き出す。
そのまま・・・犯して。ボクの心も魂も、全部犯して。
そんなことを思ってしまう、自分が嫌いだ。
・・・本当にバカ・・・。
やめて・・・そんな瞳で見ないでよ・・・やめてよ・・・。
そんな全部わかってるような顔・・・もう降参・・・。
「ごめんなさい・・・」
「雪?」
猛の真っ直ぐな瞳に耐えきれず、ボクは思わず謝っていた。きっと真っ赤になっているであろう顔を、両腕で覆(おお)って、猛に見られないように、全部覆って隠した。
「ごめん・・好き・・なの・・・ずっと小さい頃から猛が・・・好き・・・」
「雪・・・」
やっと、言えた本心だった。いつか言おうと思ってた想いを、こんな形だけど、言ってしまった。
「気持ち悪いよね!ごめん!わかってるから!だから、全部忘れて!!」
猛に見られたくない。
ボクは膝を立てて両腕で抱えこみ、その中に顔を埋めた。
ずっとずっと生まれた時から一緒で。ずっと側にいてくれて。
大切な人だから、誰よりも好きな人だから・・・嫌われたくなかった。疎(うと)まれたくなかった。
でも、もう・・・全部お終い・・・。
きっと気持ち悪がられる・・・嫌われる・・・もう側にはいてくれない・・・どうしよう、どうしようどうしよう・・・。
頭の中でグルグルと色んなことが回って、軽い目眩(めまい)を覚えた。
その時、顔を覆っていた腕を不意に引っ張られた。いつの間にか隣に移動してきていた猛が、真剣な表情(かお)をしてボクの腕を引き寄せて、反射的に顔を上げたボクの顎(あご)を捕らえて、覆いかぶさるように近づく。
「猛・・・?」
「好きだ」
「ふぇえ?」
「雪が好きだ。ずっとずっと雪が好きなんだ」
猛の顔が近づいてくる。一重の目が更に細められて、薄い口唇が近く。短かく整えられた金髪が綺麗だなと、そんなことをぼんやりと考えていたら、口唇に暖かくて柔らかいものが触れた。
猛の口唇だった。
初めて触れる口唇。柔らかいものが、そっと触れては・・・離れて・・・。
何度も何度も繰り返す。
ボクの反応を伺(うかが)っているような動きに、頭が混乱して情報が処理できなくなっていた。
「たけ・・・待っ・・・」
「・・・好きだ・・・雪・・・雪・・・」
何度も何度も『好きだ』と言われる。
それだけでもパニック状態なのに、更にキスまでされていて、本気で何がなんだかわからない。
抵抗もできず、猛の熱い口吻(くちづ)けを受けていたら、体の奥深くから変な感情が湧き上がってくるのがわかった。
お腹の辺りからじわじわと熱が広がって、体中を侵(おか)していく。
猛に対して欲情しているのが、わかった。思いっきり犯して欲しいと、ぐちゃぐちゃにして欲しいって思っている。
「・・・・・っっっっ!」
ボクは思いっきり猛の胸を突き飛ばしていた。こんな、こんな醜い欲望を猛に知られるわけにいかない。
猛に抱いて欲しいなんて思ってること・・・絶対に悟られるわけにいかない。
嫌われたくない。嫌われたくない。嫌われたくない・・・。
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