2 / 155

2.ポップサーカス 【1】

という具合で、今では真正面から自分の気持ちを受け止めて、批土岐を抱きたい衝動に駆られながら、恋焦がれる日々を過ごしている。 抱ける日なんて、一生こねえかもしんねえけど。 相手は同性、異性に告白することとはワケが違う。 勝負に臨む前から結果が見えている様な、一筋の希望すら見えない戦い。 こんな気持ちを知られたら、一体どんな顔をするのだろう。 余りにも薄い勝機、微かな勝ち目すら見えない。 それでも、自分の気持ちを素直に受け入れた瞬間から、批土岐へよく話しかけては接するようになっていた。 初めは少なからず驚いていたけれど、すぐに柔らかい笑みを見せてくれるようになり、それからはよく喋り合い今に至る。 霰もない想像に批土岐を巻き込んでは欲望をぶちまける自分に、冷静になってからいつも嫌悪してやりきれなくなる。 それと同時に、批土岐に対して想う申し訳ない気持ち。 それでも決してやめる事が出来ないのは、俺が健全な日本男児であり若い証拠。 人間、何事も開き直りが大事である。 悶々と続く葛藤に苛まれていた日々を経て、ある日転がってきたのは予想もしていなかったチャンスだった。 「なあ、成山」 「ん~?」 生徒会室で雑用の整理をしていた批土岐のもとへ転がり込み、居座り続けて早数時間。 不意に声を掛けられて、反応を示す。 「今日、良かったらこれから家に来ないか?」 「おー。……って、ええっ……!!?」 唐突に告げられた誘いの言葉に、激しく驚いたのは言うまでもない。 「……ダメか?」 「行く行く行く行く!!!」 二度とないかもしれないチャンスに、迷わず喰らいついていた。 「おっじゃまっしまーす!!」 「うん。今日は誰もいないから」 やべえ俺、最高ツイてる。 余りにも浮かれていつも以上に落ち着きをなくし、あちらこちらへ視線を彷徨わせては眺めていく。 閑静な住宅街に佇んでいる批土岐家は、外観同様に内装も、上品で綺麗なものだった。 きちんと整理が行き届いている部屋を見つめ、高まる気持ちは騒ぐ一方だった。 「何か飲む? 缶ビール位ならあったかな」 「おお!! いいねえ!!」 「本当元気だな、成山は」 そして浮かべるはにかんだ笑みに、また心を奪われる。 そうしている間に冷蔵庫へ向かったかと思いきや、缶を何本か取り出して、リビングに持ってきてくれた。 「しっかし意外だよなあ。まさか会長サマがビール飲むなんて!」 「ふふ、がっかりした?」 「や、全然!! 寧ろ逆だな!! ぐうだぜぐう!!」 他愛もない会話をしながら笑い合う、心地良い雰囲気に感じる幸せは極上。 すげえ俺、今ちょう幸せだっ…… 「でさ~、そしたらなんつったと思う?」 「……」 「批土岐……?」 「あ、……悪い。もう一回言ってくれないかな?」 呼び掛けに言葉を返した批土岐の顔は、ほんのりと朱に染められていて、酔いが回ってきているように思えた。 辺りを見渡してみると、役目を終えた空き缶がそこかしこで転がっている。 これだけの量を飲み続けていた批土岐も凄い、けれどもうそろそろ限界が近いらしい。 俺も、別の意味での限界が近い。 「批土岐、もう寝たらどうだ? 顔赤くなってんぞ?」 酔いに襲われる批土岐を見て、少しでも気を抜けば今にも暴走してしまいそうだ。 しかしここはなんとしても踏ん張らなければならない、清い関係を守り続けなければならない。 それでも酔った批土岐に絡まれてしまった日には、有り難く隅々まで戴くのみ。 「大丈夫だから……」 「そうは見えねえけど……」 このまま勢いに任せ襲えたらどんなに良いか、暴走しそうになる自分を必死に抑えつける。 次へと現れる想いを掻き消しては、葛藤を繰り返す。 それらの行動を経て、待っていた展開とは。 ドサッ ――床に、倒れる音。

ともだちにシェアしよう!