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2.ポップサーカス 【1】
という具合で、今では真正面から自分の気持ちを受け止めて、批土岐を抱きたい衝動に駆られながら、恋焦がれる日々を過ごしている。
抱ける日なんて、一生こねえかもしんねえけど。
相手は同性、異性に告白することとはワケが違う。
勝負に臨む前から結果が見えている様な、一筋の希望すら見えない戦い。
こんな気持ちを知られたら、一体どんな顔をするのだろう。
余りにも薄い勝機、微かな勝ち目すら見えない。
それでも、自分の気持ちを素直に受け入れた瞬間から、批土岐へよく話しかけては接するようになっていた。
初めは少なからず驚いていたけれど、すぐに柔らかい笑みを見せてくれるようになり、それからはよく喋り合い今に至る。
霰もない想像に批土岐を巻き込んでは欲望をぶちまける自分に、冷静になってからいつも嫌悪してやりきれなくなる。
それと同時に、批土岐に対して想う申し訳ない気持ち。
それでも決してやめる事が出来ないのは、俺が健全な日本男児であり若い証拠。
人間、何事も開き直りが大事である。
悶々と続く葛藤に苛まれていた日々を経て、ある日転がってきたのは予想もしていなかったチャンスだった。
「なあ、成山」
「ん~?」
生徒会室で雑用の整理をしていた批土岐のもとへ転がり込み、居座り続けて早数時間。
不意に声を掛けられて、反応を示す。
「今日、良かったらこれから家に来ないか?」
「おー。……って、ええっ……!!?」
唐突に告げられた誘いの言葉に、激しく驚いたのは言うまでもない。
「……ダメか?」
「行く行く行く行く!!!」
二度とないかもしれないチャンスに、迷わず喰らいついていた。
「おっじゃまっしまーす!!」
「うん。今日は誰もいないから」
やべえ俺、最高ツイてる。
余りにも浮かれていつも以上に落ち着きをなくし、あちらこちらへ視線を彷徨わせては眺めていく。
閑静な住宅街に佇んでいる批土岐家は、外観同様に内装も、上品で綺麗なものだった。
きちんと整理が行き届いている部屋を見つめ、高まる気持ちは騒ぐ一方だった。
「何か飲む? 缶ビール位ならあったかな」
「おお!! いいねえ!!」
「本当元気だな、成山は」
そして浮かべるはにかんだ笑みに、また心を奪われる。
そうしている間に冷蔵庫へ向かったかと思いきや、缶を何本か取り出して、リビングに持ってきてくれた。
「しっかし意外だよなあ。まさか会長サマがビール飲むなんて!」
「ふふ、がっかりした?」
「や、全然!! 寧ろ逆だな!! ぐうだぜぐう!!」
他愛もない会話をしながら笑い合う、心地良い雰囲気に感じる幸せは極上。
すげえ俺、今ちょう幸せだっ……
「でさ~、そしたらなんつったと思う?」
「……」
「批土岐……?」
「あ、……悪い。もう一回言ってくれないかな?」
呼び掛けに言葉を返した批土岐の顔は、ほんのりと朱に染められていて、酔いが回ってきているように思えた。
辺りを見渡してみると、役目を終えた空き缶がそこかしこで転がっている。
これだけの量を飲み続けていた批土岐も凄い、けれどもうそろそろ限界が近いらしい。
俺も、別の意味での限界が近い。
「批土岐、もう寝たらどうだ? 顔赤くなってんぞ?」
酔いに襲われる批土岐を見て、少しでも気を抜けば今にも暴走してしまいそうだ。
しかしここはなんとしても踏ん張らなければならない、清い関係を守り続けなければならない。
それでも酔った批土岐に絡まれてしまった日には、有り難く隅々まで戴くのみ。
「大丈夫だから……」
「そうは見えねえけど……」
このまま勢いに任せ襲えたらどんなに良いか、暴走しそうになる自分を必死に抑えつける。
次へと現れる想いを掻き消しては、葛藤を繰り返す。
それらの行動を経て、待っていた展開とは。
ドサッ
――床に、倒れる音。
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