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3.ポップサーカス 【1】
おっしゃきたーっ!!
と、夢が現実になりそうな場面運びに、嬉々として見上げる。
見上げるが、どうもオカシイ。
見上げるが、何かが引っ掛かる。
見上げるが、嬉しさは何処へやら。
押し倒すような展開になり嬉しさが込み上げていたはずなのに、素直に喜べないのは一体どうしてか。
それは今、押し倒されているのが明らかに、
俺だからだ。
「ちょ、ちょっと待て!! 批土岐!!」
常日頃から批土岐を抱きたいと思っていたのは確かだが、抱かれたいという気持ちになったことは一度もない。
「成山……、好きだ……」
「……へ?」
思いもよらない展開に混乱していた中、唐突に告げられた想いを聞いて、間抜けな声が唇から漏れていく。
「批土岐、酔ってんのか……?」
顔を覗き込むようにして、窺うように口を開く。
続く有り得ない展開に、思考が遅れをとっている。
「……本当は、言うつもりなんてなかったんだ。だって、……こんな感情オカシイだろ? 成山は、男なんだから……」
「批土岐……」
「でも……やっぱりダメだ。もう、無理なんだ。成山のこと見てたら……、どうしようもなくなって……。ごめん、困らせて」
ゆっくりと言葉を紡いでいくその姿が辛そうで、気付けば腕を掴み自分へと引き寄せていた。
「成山……?」
「……ばかっ。先越されちゃったけど、俺も……好き。だからお前にすげえちょっかい出して振り向いてもらおうとしたし、今日も家に誘ってもらえて……、マジで嬉しかった……」
「成山……。良かった……」
勝機0の戦いから、華麗なる逆転勝ちへ。
いつからか通じ合っていたお互いの想いを知ることができ、驚きは大きかったけれど、遥かに上回る喜びといったら半端なものではない。
「批土岐~っ!!」
「……成山、ちょっと苦しいな……」
形はどうあれ、報われる時がくるとは全く思っていなかった。
心からこの場へ来れたことを幸せに思いながら、暫しの間は瞳を閉じて嬉しさに溺れた。
「……ん? ぁっ…な、にっ……?」
何かを感じ取り視線を向ければ、首筋へ舌を這わせる批土岐の姿が瞳に映り込む。
動きは次第に範囲を広げ、舌を滑らせながら徐々に下がっていく。
くすぐったさにも似た感覚が身体を這い回る中で、ボタンを外され外気に晒されていく肌。
危うい程に流されている状況で思うことは、何故か有り得ない位に受け手にいるという現実。
脳内が大混乱を起こしている間にも行為は進んでいき、何故こんなことになってしまっているのか分かるはずもない。
肌晒し状態で、俺は恥晒し状態。
全く笑えない程度には、大ピンチというやつだ。
「ま、待て批土岐っ!! 俺はっ……、あ、うっ!」
抱かれるのは批土岐だと主張したいのだけれど、与えられた愛撫に反応してしまい驚くような声を上げてしまう。
「可愛い、成山……」
「あっ、ち、が……ぁ! は、あ……っ」
一瞬たりとも望んでいなかった展開へ足を滑らせてしまい、脱せず次第に引きずり込まれていく。
「んっ……ぁ、ひ、ときぃっ……、やっ、はぁっ……」
言葉は形を失い、声は己を見失わせる。
焦らすように舌先で弄られる胸の尖り、ゆっくりと舐めては軽く吸い込んでいく。
その間、もう片方は指で摘まれこね回されて、どっと押し寄せる快楽の波に攫われてしまいそうだ。
「あぁっ、……ん!」
あれだけ抱きたいと思っていたはずなのに、結果的には抱かれる側に落ち着こうとしていて、考えられないような甘ったるい声が唇から零れている。
自分が気持ち悪くて仕方がないものの、確実に快楽へ堕ちているのは事実。
両の突起を巧みに攻め立てられて、じわりと中心が熱く疼き出すのが分かる。
「はっ、あっ……ぁ、んっ、あっぁ……」
「気持ちいい……?」
「ぁっ……、んっ」
形にならない言葉はただ、散っていく。
滑り落ちていくのはひたすら甘美に溺れた声ばかりで、快楽に流されてしまう寸前まで、身体はもう来てしまっていた。
「ずっと……、成山とこうしたかった。成山と毎日顔を合わせながら、俺はずっと……、こんなことを考えていたんだよ。この姿を想像して……、時には1人で……分かるよね?」
サラりと髪へ触れ、穏やかな笑みを浮かべている批土岐からは、信じられないような言葉が紡がれる。
相手を想い自分を静めた行為はお互い様ではあるけれど、なにか無性に恥ずかしさが込み上げていく。
批土岐の言葉に対して言いたい事が沢山あるというのに、唇からはとめどなく嬌声ばかりが上がってしまう。
「乳首弄られただけで、勃っちゃったんだ……?」
胸元から離れた指先は、知らぬ間に下腹部へと到達していた。
「あっ……、やだっ……。見、んなっ、あっ……」
胸を攻められただけで自身を高ぶらせてしまった恥ずかしさと、情けない自分に泣きたくなってきた。
「成山……、やらしい」
「っかやろぉ……、そんなわけっ……。あっ、んんっ……」
「ないとは言わせない……」
ガチャりと外されるベルト、けれど制服は未だ剥ぎ取られずに残っている。
生地により隠されてはいたけれど、そこは目に見えて分かる程に主張していた。
布越しにそっと触れ、やんわりと包み込んでいく。
直に触れるのとは違い、今一つ強烈な刺激もなくジワりと追い上げられて、沸々とじれったさだけが込み上げてくる。
好き勝手されていることを不服に思いつつも、めちゃくちゃにしてほしいという欲望がいつしか生まれ、行き着く先は……。
「ぁっ、……って」
「成山……? なに……?」
「あっ……、もうっ……、た、のむからっ……、さわって……」
「どういう風に……?」
「んっ……ぁ、な、までっ……」
その瞬間から、攻めたいという意思は完全に姿を消し、与えられる快楽の波へ従順に溺れていった。
「あっ、ん……やっ、あっ、あ……っ」
「もう3本目だよ……? 本当にいやらしいんだな、京灯は」
高く掲げられた腰、後ろから指を入れられ内壁を掻き混ぜられる。
最初の1本目は、異物感にただ気分だけが悪くなっていたというのに。
繰り返された挿入を経て、3本もの指を咥え込んでは淫らな声を上げ続けている。
こんなにも快楽を引き出されるとは知らず、今ではもう生み出される快感に喰らいつき離れられない。
クチュりと掻き混ぜられては狂おしい程に気が高ぶり、ふいに自身へ触れてきた指先に快感が増していく。
前後からの刺激に、我を見失い甘ったるい喘ぎを繰り返すしかない。
「あっ、ぁっ、ん、はぁっ……や、あっ、いっちゃ……! あっ! あぁっ、ん!」
そして解き放たれていく、何度目かの欲。
「そろそろ、……いいかな」
「ぁっ……ん」
それまで散々内壁を貫いていた指がズルりと抜かれ、次には比にならない程に熱く猛る存在が中へと入ってきた。
「あぁっ……! は、あっ、……い、てえっ……はっ、ん!」
「っ……力、抜いて……?」
内部へ進行してきた存在を、反射的に締めてしまう。
批土岐は少し苦しそうな声を上げたが、それでも確実に奥へと腰を進めていった。
「んぅっ……! はぁ、あっ、ああっ、ん……!」
やがて、批土岐自身がすっかり内部に収まる。
奥までしっかりと感じる熱、少しずつゆっくりと批土岐は腰を動かし始めていく。
律動に合わせ漏れ出るグチュりという音は、情事を示す卑猥な証。
腰を打ちつけられるまま、すでに何度か達していた自身を捕らわれて、上下に緩く刺激を与えられる。
それだけでは終わらず、空いていた手は胸の突起へ狙いを定め捕らえていく。
たまらず溢れていく蜜は止められず、先端から行儀悪く伝い落ちる。
指の腹でこね回される突起は熟れて、ピンと起立し快楽を受け入れていく。
あちらこちらから押し寄せる言いようのない甘美な波に、すでに爆発してしまいそうだった。
「あぁっ、ひ、ときぃっ……あっ! あぁっ、……もぉっ、お、れ……っあ、あぁっ、ん!」
「名前呼んで……?」
「ぁっ……、しゅ、うっ……、あ、んんっ……! しゅうっ……や、あんっ、だ、めぇっ……、はぁっ、あっ、あぁっ……!」
「っ……!」
渦巻いていた全ての欲をその瞬間、お互いにをぶちまけた。
「……」
とりあえず、絶句するしかなかった。
事を終えて未だ余韻に浸りながら、その場に寝そべっていた。
先程までの霰もない自分を思い返して絶句し、恥ずかしさに顔も上げられない状況だった。
一方の批土岐と言えば、嬉しそうに笑みを作りこちらをずっと見つめている。
当初掲げていた、批土岐を抱くという夢は叶いそうなところまでいっておきながら、最終的には自分が抱かれてしまうというなんとも情けない事態。
立場を逆転することも出来ず、結局は流され散々なことにしてくれた。
見られなくてもいいところまで見られ、聞かれたくもない声を聞かれ、末は中へと入られ揺すられて。
またどうしようもなく恥ずかしくなり、頭を抱え込んでは目を閉じる。
すると突然、唇に何かが触れてきた。
「んっ……。ひ、とき……」
「そういえば、肝心のキス……まだしてなかったから」
そうしてまた、柔らかくはにかむ。
抱かれても尚、その表情には弱かった。
有り得ないだろう関係を結べ、幸せなことは確か。
だから何故ネコ側になってしまっていたのかは、今だけは置いておくことにした。
なにはどうあれ、嬉しいことには変わりないのだから。
「好きだ……、京灯」
「俺も、……好き」
まだまだこれから先、星の数ほどチャンスは転がっている。
いつでもそれを拾い上げ、主導権を握ってやろうと気合いを入れていく。
今回のは手違い、そう自分に言い聞かせていきながら。
そして次こそは……!!
可愛いお前を襲っちゃうぜ、批土岐――!!!
《END》
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