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1.ポップサーカス 【2】
「京灯」
「へ? どうした批土岐」
放課後の生徒会室、全く縁のない様なこの場所で、携帯をイジイジしつつ今日も俺は元気に居座っていた。
太陽はとうに沈み、闇に染め上げられた外の景色は黒一色で、室内は静かな空気に満ちている。
「ソレ」
「どれ?」
幾らか前までは生徒会役員も居たけれど、もう遅いからと会長である批土岐が皆を帰らせて、今は夜の生徒会室に2人きりなんて言うドキドキなシチュエーションだったりする。
もちろん他に誰1人として居なくなってからも作業を続けていた批土岐だったから、邪魔にならない様にと沈黙を守りつつ時を同じく過ごしていたわけなんだが。
「分かってるよね」
「…ははっ、バレちゃってる?」
冒頭の呼び掛けに静寂は破られ、スラスラと動いていた手を止め、批土岐の視線がこれでもかと言う程に注がれる。
何人か座れるだろう長椅子にお行儀悪く座っていた俺は、なんとかとぼけ続けていたものの、結局のところは笑うしかない状況で。
しかし悲しいかな、この場合どんなに俺が男前に笑っても、絶対にごまかされてくんねんだよな。
「別にさあ、どっちでも良くね?」
「なら言ってもいいんじゃないかな」
「や、それは…」
携帯片手に主張してみるものの見事に墓穴を掘り、あからさまに瞳を逸らしながら何処か遠くへと視線を向ける。
批土岐め、なんつう頑固な奴だ…ッ!!
一歩も退くつもりがないらしい批土岐を前に、この場を取り繕える様な上手い言葉も見つからず、ただただ笑うしかない。
俺もなんでこう、変なとこで恥ずかしがんだろな…
この一連の流れとなった発端が明かされれば、きっとそんなこと位でと誰もが呆れるに違いない。
だけど俺の中では今のところ、何よりも重大且つどうにも出来ないお悩みなのだ。
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