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6.ポップサーカス 【2】
「俺、好きなんです」
「ん? なにがだ?」
「成山先輩のことが、好きなんですよ」
「……、えっ!!?」
佐伯の言っている事が一瞬分からなくて、頭の中では言葉を整理し理解するのに忙しい。
俺、今なに言われた?
とりあえず身を固まらせ、どうしたらいいのかと混乱している模様。
「良かったら、俺と付き合ってもらえないですか?」
「……、へっ?」
そして降りかかる、トドメの一撃。
どうしたっつうんだ、佐伯は一体なにを言ってんだ。
あ、もしかしてドッキリみたいな?
それともエイプリル…、てとっくにそんなの過ぎたしな。
「先輩?」
「おっ、おもしれえ冗談だな!!」
「んなわけないじゃないすか」
「…あはっ、そっすよねえ」
冗談として受け取り軽く流そうと試みるものの、華麗に即一掃される。
ニコりと爽やかに笑いながら、強気なサッカー少年は俺へと視線を注ぎ続けている。
「別に今すぐにとは言わないんで、考えてみてもらえないすか?」
「え、あ…うん」
しかしどう考えたっておかしいぞ、こんな俺をどうやったら好きになれるっつうんだ。
第一俺、男…ッ!!
まあなんつうか、批土岐や俺もそうなんだけどそこはまず置いといてだな、大体…ッ!
「んじゃ、いい返事待ってます!!」
「えっ!!」
そして言うだけ言って、サッサと靴に履き替えたかと思えば、リアクション一つとしてとらせてはくれず目の前から走り去って行く佐伯。
置いてかれてばっかだな俺、なんて思いつつも未だに何処かポカーンとしたまま、駆ける後ろ姿を見つめているだけ。
「おいおいおい、マジかよ…っ」
思わず口ピが飛んで行ってしまいそうな衝撃。
なんとも言えない表情のまま立ち尽くし、そこで俺は漸く重大な事に気付く。
「ああ!! やっべえ!! さっきウンとか言っちまったし!!」
幾ら状況が呑み込みきれていなかったとは言え、批土岐と言う者がありながら俺は、さっきの申し出を断り切れなかったと言う大失態。
「何やってんだよ俺~っ」
当然の事ながらそんな自分にガッカリして、ついその場へとしゃがみ込んでしまう。
参ったな俺モテモテだぜ!!なんてかます余裕もなし。
来る者拒まずな時代もあった、平気で二股とかしてた時もあったけど、それでも流石に男とは無かったな。
「でも今は、ちげえから」
その頃とはもう、俺は違う。
言い聞かせる様に呟いて、スッと立ち上がる。
「佐伯 翔か。名前が分かってんなら余裕だな」
明日、ソッコー断りに行こう。
気持ちはすげえ嬉しいんだけど、受け取れないってそれは。
可愛い女の子でも見つけてさあ、イチャこいちゃう方がぜってえいいから!!
「お─っし、やるぜ!!」
改めて自分へと気合いを入れ、とりあえず早く帰ろうと思い、やっとのことで校舎を後にするのだった。
こうなってみると、批土岐に先帰ってもらって良かったぜ、なんてな。
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