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8.ポップサーカス 【2】

「…あ~あ、学年組聞いときゃ良かったな」 そんな余裕なかったくせに。 二年の教室が立ち並ぶ廊下を歩みながら、探し始めてまだ間もないと言うのにすでに疲れてきている俺、当たり前だけど人が多過ぎる。 夜のあの静けさがまるで嘘のようで、笑い声やふざけあう姿に溢れていて、相当な賑やかさだった。 「…この中から見つけろってか」 フラッと立ちくらみでもかましそうな程度には、うっわあ絶望的にめんどくせえ。 足を進める度にチラチラと注がれる視線を感じながら、辺りを見渡しては記憶に焼き付かせた姿を探す。 「先輩?」 「ん?」 おおおおっ!! 居たぜ俺天才!! 「つってもよく分かったな?」 「そりゃ分かりますよ。これだけ目立ってれば」 掛けられた声に振り返れば、そこに立っていたのは俺が探し求めていた佐伯の姿があって。 やっぱ昨日のことは夢じゃなかったんだなと、現実逃避したいところをズルズルと引き戻される。 しかし俺のこのどこが目立つと、なんてな…ッ!! 「どうしたんすか? 珍しいっすね、ココに来るなんて」 「どうしたもこうしたも、お前を探してたんだよ!! お前を!!」 「あ、俺?」 「そ─っ!!」 よし言うぜ、やれ言うぜ!! こんな所で言うのもどうなんだと思いつつ、今の俺にはゆっくりと場所を探している余裕なんてないわけで。 佐伯をガッチリと捕獲したところで、男前で爽やかに笑顔を浮かべる後輩を前に、それはもう急ぎ足で言葉を紡いでいく。 「で、昨日の事なんだけど俺な…ッ!!」 「先輩、どっか食い行こ」 「て、ええっ!! ちょ、ちょっと待てって佐伯!!」 「翔でいっすよ」 「や、つうか俺の話を…ッ!!」 気合いを入れて佐伯へ正直な気持ちを伝えようとしていたところで、突然に腕を掴まれたかと思えばぐいぐいと前へ引っ張られていくオチが待っていて。 「あ、あのなあ~!! なあに勝手な事言ってんだよ!!」 「別に皆勤目指してるわけじゃないっしょ先輩」 「うっ…そりゃ、そんなもんとっくに…」 何一つとして決定的な事を言えないまま、何故か佐伯の思うままに廊下を歩かされている俺は、正直結構情けないと思う。 なんとかこの状況を変えようと足掻いてみるものの、皆勤ネタを持ち出されちゃ俺にはどうにも出来ないぜ。 んなもん入学してすぐにサボってた俺には無縁なお話ってやつだ。

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