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9.ポップサーカス 【2】

「何処行きたいですか?」 「ドコって別に…ッ」 しっかし強引な奴だなあ、この佐伯ってのは。 いちおうこれでも先輩なんだけどな、なんか俺みっともねえなあ。 「あっ」 なんだかんだで連れ去られそうになっていた時に、廊下を歩く批土岐の後ろ姿が視界に飛び込んでくる。 「昨日一緒に居た、確か生徒会長ですよね」 「ああ」 声を上げた俺に、何に対してのものだったか気付いたらしい佐伯は、確かめる様に唇を開いてくる。 「ひと…っ!」 「会長」 まあた邪魔されたよオイ。 さっきは佐伯によって見事に言葉を遮られ、今度はたぶん生徒会の誰か。 何か急な用があったわけではないけれど、姿を見つけるとつい呼び掛けてしまう様な俺だから。 言いかけたものの、口を噤んで一部始終を見つめて。 「廣瀬じゃないか。どうかした?」 「会長、少し時間ありますか?」 「ああ」 「昨日言っていた事なんですけど…」 批土岐を呼び止めたのは、何度か顔を合わせた事のある奴だった。 よくは知らないけれど、会長としての批土岐を支える存在だというのは明らかで。 俺に気付く事もなく去って行く二人を見て、この場合は声が届かなくて良かったと思うべきなのかどうなのか。 昨日の今日で真っ先に佐伯の元へと来ていただけに、理由がきちんとあるにしてもパッと見なんとも気まずい鉢合わせになりそうな可能性も窺えて。 これはこれでまあ、声が届かなくて良かったと納得させてみる。 「先輩」 でもなんか、全然別な世界の奴って感じで、ほんの少しはそりゃ切なかったりもする。 でも当然、だよなあ。 毎日適当に学校来てるだけの俺とは違うわけだし、忙しくなるって言ってたもんな。 「ん?」 「ドコ、行きますか?」 批土岐がさっきまで居た場所をぼんやりと眺めて、注がれた言葉に視線を向ける。 「奢りますよ」 目の前には、人懐っこい笑顔を浮かべる佐伯の姿があった。

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